「ミサイルが落ちないのにJアラートを鳴らすな」が見落とす危機管理の3原則

2017.09.10

《本記事のポイント》

  • ミサイルの着弾地が分かるのは燃料が燃え尽きてから
  • 着地点が分かってから避難するのでは間に合わない
  • 「空振りは許されるが見逃しは許されない」が危機管理の原則

近々、全国瞬時警報システム「Jアラート」がまた鳴る可能性がある。

北朝鮮は現在、いつでも大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射できる状態にあると、韓国当局は分析している。

9日の「建国記念日」前後や10月10日の「朝鮮労働党創建記念日」、あるいは、微妙にタイミングをずらして意表を突く形で、発射に踏み切る可能性が高い。それに対してアメリカが軍事行動を起こせば、北朝鮮が「反撃」としてミサイルを発射する局面があり得る。

「ミサイル落ちないのにJアラート鳴らすな」の盲点

そんな情勢下で、明日にでも鳴る可能性があるJアラートに対して、日本国内から苦情が出ている。

8月29日早朝、Jアラートが一部地域に鳴ったことについて、実業家の堀江貴文氏は公式ツイッターでこうつぶやいた。

「マジでこんなんで起こすなクソ。こんなんで一々出すシステムを入れるクソ政府」

テレビやネットでも、「ミサイルへの破壊措置命令が出ていないのに、なぜJアラートを鳴らしたのか。危機感を煽って、軍事増強をしたいのではないか」という趣旨の意見がちらほら出ている。

つまり、「日本にミサイルが落ちないのに、なぜJアラートを鳴らしたのか」と言いたいわけだ。

ミサイルの着弾地が分かるのは燃料が燃え尽きてから

しかし、そうした意見は、ある重要な事実を見逃している。

実は、ミサイルは発射されてから3~5分の間、「どちらの方向に飛んでいるか」は分かっても、「どこに落ちるのか」を予測することができない。正確な軌道計算を行い、「日本に落ちることが確実」と分かってから、Jアラートを鳴らしても、国民に十分な避難時間が残っていない可能性が高い。

どういうことか。

もし、飛んでくるのが野球ボールであれば、投げられた瞬間に、どこに落ちるかはだいたい分かる。ボールの角度やスピードから、どんな放物線を描いて落ちていくかを割り出すことができるためだ。

しかし、弾道ミサイルの場合、少し事情が異なる。ミサイルは、発射された3~5分の間、エンジンで加速する「ブースト段階」という過程がある。

もし、燃料が少ししか積まれておらず、2分間しか加速しなければ、ミサイルは近くに落ちる。燃料が多めに積まれ、加速が5分間続けば、より遠くに着弾する。

ミサイルの「ブースト段階」が終わってはじめて、ボールで言えば、「選手の手から離れた瞬間」となる。重力などを考えれば、正確な軌道計算ができるのはそれからだ。

そして、その段階で「これは日本に落ちる」ということがはっきり分かれば、迎撃ミサイルによる破壊措置が実行される。

「どこに落ちるか」分かってからではもう遅い

しかし、その段階では、ミサイルの「旅」は3分の1ほど終わっている。ミサイルの種類や飛距離にもよるが、その時点でJアラートを鳴らしても、国民の避難時間は1~2分しか残されていない場合もあるのだ。

ミサイルが落ちてくる可能性が50%だったとしても、その可能性があれば避難を促し、その分の避難時間を確保することは、危機管理上では合理的な判断だ。

2月に沖縄でJアラートが鳴った時の場合

例えば、北朝鮮が2月2日に「人工衛星」の打ち上げと称する、事実上のミサイル実験を行った。その時、沖縄県だけにJアラートが鳴らされた。

その時、ミサイルが発射された瞬間に米軍からもたらされた情報は「南の方向に発射された」ということくらいだった。その段階では、ミサイルの本数さえ分かっていない。それから2分後、防衛省がレーダーで捉えた情報で、ようやく「発射数が1発」であることが分かっている。

さらに1分が経っても、まだミサイルが沖縄県に飛来する可能性が残されていた。ミサイルが本当に沖縄に照準が合わされていた場合、落下するまでに残されていた時間は、7分前後だったと思われる。

政府はその時点で、沖縄県にJアラートを鳴らした。地下鉄などがない県民が身の安全を確保するには、7分でも足りないくらいだっただろう。

7分後、ミサイルが沖縄の上空を通過したことが確認され、破壊措置を実施しないことが確認された。

「空振りは許されるが見逃しは許されない」

アメリカでは、危機管理のトップに立つ者の行動原理として、「プロアクティブの原則」というものがあると言われている。その原則は以下の通りだ。

  • 「疑わしいときには行動せよ」
  • 「最悪事態を想定して行動せよ」
  • 「空振りは許されるが見逃しは許されない」

Jアラートが、「領土にミサイルが飛来すると確定した段階」ではなく、「領土にミサイルが飛来する可能性があると判断された場合」に鳴らされるのは、その原則にかなっている。

そして、もしJアラートが空振りとなり、国民が「こんなことで起こすな」と怒っても、「見逃し」よりははるかにマシなのだ。

Jアラートに止まらない「プロアクティブの原則」

「プロアクティブの原則」は、Jアラートのみならず、様々なレベルで言えるだろう。

例えば家族や個人においても、Jアラートが鳴った瞬間、「どうせ落ちないから、動かなくてもいい」と考えることは、その原則に反する。

自治体が、「ミサイル着弾に向けて避難訓練を実施するかどうか」を判断する場合でも、「わが県に、ミサイルが飛来する可能性は低い」といった議論をすることも、原則に反する。

また、より大きなレベルの判断で、「政府が核シェルターを設置するかどうか」「より防衛力を強化するかどうか」「アメリカの核の傘が無効になった場合に備えて、日本も核装備を検討すべきかどうか」といったことを考える段になっても、「そうした局面が来る可能性は極めて低い。なぜなら……」といった議論をすることは、原則に反している。

こうした「最悪の事態を想定する」という危機管理の原則を国民に浸透させることが、個人においても、国家においても、安全につながるはずだ。

(ザ・リバティWeb企画部)

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2017年4月11日付本欄 トランプが北朝鮮を攻撃する日、日本が覚悟すべき3つのこと

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タグ: 着弾地  苦情  軌道  Jアラート  軍事行動  ミサイル  危機管理 

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