文科省「23区の大学定員制限」に批判噴出 廃止された「昭和の悪法」そっくり!?
2017.08.27
《本記事のポイント》
- 文科省が「23区の大学定員制限」の方針
- 天下の悪法「工場等制限法」とそっくりな内容!?
- 地方大学のために、学生の利益と国力を犠牲にする
数ある日本の法律の中で「天下の悪法」として有名だったのは、工場や大学を無理やり都市部から地方に移転させた「工場等制限法」だと言われている。
この悪法を、文部科学省が復活させようとしている。
早稲田は定員を2000人減らしていた
文科省は、東京23区内にある私立大学の定員増を、2018年度から原則として認めない方針を正式に固めている。近く大学設置に関する告示を改正する見通しだ。
理由は「東京一極集中を是正し、地方創生を促すため」というもの。
大学からは悲鳴が上がる。日本私立大学連盟は「極めて慎重に議論を重ねるべきである」と反発するコメントを出している。
これに先立ち、「定員オーバーの大学は補助金を減らす」という政策があった。それを受け、早稲田大学は2017年度入試で合格者数を約2000人減らした。2000人がどれだけの数かというと、教育学部の合格者数は2155人で、国際教養学部が588人だった。つまり、学部が1~3個吹っ飛んだようなものだ。
各紙からも評判が悪い。産経新聞は社説で「視野が狭いと言わざるを得ない」と批判。毎日新聞も社説で「23区内の大学定員を抑制することで、地方大学が活性化するかは疑問がある」と評した。
悪法「工場等制限法」とそっくり!?
ほとんど同じような「悪法」が、かつて存在した。
今は廃止された、いわゆる「工場等制限法」だ。都市部への「一極集中」を防ぐため、1950~60年代の間に、東京・大阪の一部地域で、大きな工場や大学の新設・増設を制限したのだ。
東京、大阪の製造業は大打撃を受けた。特に大阪経済の受けたダメージは、「地盤沈下」という激しい言葉で呼ばれている。ただでさえ停滞する日本経済の中で、大阪経済の規模のシェアは下がり、事業者当たりの従業員数も減り続けた。この閉塞感が、あの「橋下ブーム」につながった。
大学も、大打撃だ。中央大学、東京都立大、法政大学などが、キャンパスを東京の郊外に移転させざるを得なくなった。その結果、中央大学などは、人気も実績も低迷している。
各界から「天下の悪法」と不評だったこの法律は、2002年に廃止されることになる。廃止は歓迎され、小泉政権の「構造改革」の最大の成果だという見方さえある。
中央大学の法学部は、都心部にキャンパスを移すことを決める。郊外移転が、よほど経営に響いていたのだろう。
さんざん議論された「大学定員抑制の愚」
「工場等制法」を廃止するにあたり、政府は、その失敗・反省についてさんざん議論したはずだった。
例えば2002年扇千景・国土交通相は、衆議院で同法の廃止を提案するにあたり、こう訴えた。
「制度創設から約40年を経過した今日、(中略)少子化の進行に伴う若年人口の減少等、社会経済情勢が著しく変化しており、工場等制限制度は、その有効性、合理性が低下しております」
要するに、「少子化で、少ししかいない学生を分散させたところで、地方の人口が急に増えたりはしない」ということだ。
実際に、地方から都心への若者の流入は、進学よりも、就職の方が多い。本当に都会に行きたい若者は、仮に地方大学に"足止め"されたとしても、いずれ上京するのだ。
内閣府による規制改革会議も、こう指摘していた。
「イノベーション促進のための産学官連携や社会人への職業訓練、生涯学習機会の提供など、ますます高まっていく大学への多元的ニーズの中で、この制度(工場等制限法)が障害となって、需要の高い都心部での高等教育サービスの提供が行われないことは、大きな問題である」
要するに、「企業とのタイアップや、社会人の学習など、次の時代に必要な大学教育は、都心のほうがしやすい」ということだ。
日本の大学の「世界大学ランキング」は、アジアの大学などに抜かれ、少しずつ低下している。国際競争力を高めるためにも、都市の利点を降る活用した教育が求められる。
犠牲になるのは「学生の夢」と「国力」
メリットよりも、デメリットばかりが目立った「工場等制限法」。文科省は、この反省をすっかり白紙に戻し、再び新・工場等制限法をつくろうとしている。
それに対して、日本私立大学連盟は、次のような悲痛なコメントを発表している。
「必要な学部・学科の新設や学生定員の変更を法律等による規制により阻害することになれば、幅広い教養と高度の専門的知見を身につけた未来を担う人材の育成を滞らせることとなり、社会の喫緊のニーズに応えられないばかりか、国力そのものを弱めることにもなりかねない」
今回の文科省の判断は、「地方大学が経営悪化してしまう」という各地域に"苦情"に対応したものだ。
しかし、地方大学を助けるために、大学の本来の目的である「学生の利益」「国力」を奪うのなら、本末転倒だ。
(馬場光太郎)
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