ここ数年、労働問題の相談は、「いじめ・嫌がらせ」がトップとなっている。上司との関係に悩む社員が増える一方で、上司がちょっと注意をしただけで「パワハラだ」と騒ぐ社員も増えている。だが、部下に対して、「こんなことでハラスメントと言うな!」と言いたくなることもあるはず。「問題社員」にどう対処すべきか、職場の紛争解決に当たってきたプロフェッショナルに話を聞いた(2017年4月号記事より再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)。

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強い組織をつくればハラスメント問題は解決できる

特定社会保険労務士

野崎 大輔

(のざき・だいすけ) 特定社会保険労務士。日本労働教育総合研究所代表。中小企業の人事労務分野における紛争予防解決コンサルタントとして活躍。著書に、『ハラ・ハラ社員が会社を潰す』(講談社+α新書)ほか。

ハラスメントについては、本当に問題にすべきことも多いですが、最近は何でもないことを「ハラスメントだ」と騒ぐ社員も増えてきています。

例えば、仕事のミスを叱られただけで「パワハラだ」と騒ぎ、「今日のファッションはいいね」と声をかけると「キモい!セクハラされた」という具合です。

中には、入社2カ月で、「パワハラを受けた。慰謝料をよこせ」などと言って労働組合に駆け込んだケースもあります。こんな場合でも、労働基準監督署などに呼ばれたら、経営者は出向かなくてはいけない。結果として、労働者側に問題があったと分かっても、経営者は時間と労力を奪われるのです。

ハラスメントという大義名分を武器に、むやみにハラスメントを主張することで、組織全体のパフォーマンスを下げてしまう社員を「ハラ・ハラ社員」と呼んでいます。

ハラスメント問題の本質

こうした背景から、管理職を対象とした、ハラスメント対策の研修も増えています。しかし、こういうケースがハラスメントにあたると学んでも、管理職は萎縮するだけ。それより大切なのは、部下と良好な人間関係を築くことです。労働問題は法律だけでは解決しません。究極には感情の問題だからです。

中小企業では、管理能力が低くても、仕事ができれば管理職にすることが多いですが、マネジメントが機能し、人間関係がよい会社では、業績が上がり、大きな労働問題も起きません。そのため私は、法律より人材育成のアドバイスに力を入れています。

組織づくりの鍵は理念浸透

管理職の役割として最も大切なことは、トップの経営理念を部下に浸透させ、部下を一人前の社員に育てることです。

経営理念は、会社のビジョンであり、判断の基本となる社内の「共通言語」に当たります。

経営理念が浸透している会社では、社員が共通の目的の下によくまとまっています。そのため、一部、それに反する主張をし続ける社員がいても、居づらくなって辞めていきます。

私が縁あって担当した会社の話です。上司の真っ当な指導に対し、「パワハラだ」などと反論する社員がいたのですが、周りの社員はそれに同調せず、丁寧に見守りました。最後は本人から「今までのことをお詫びしたいです。人の言葉につい反論してしまうのですが、みんなから注意を受けて、改めて気をつけようと思いました。僕、本当にこの会社に来てよかったです」という趣旨の手紙をもらって、泣きそうになりました(笑)。

人は属する組織によって、いい方向にも悪い方向にも染まっていくものです。正しい目標を掲げ、規律ある組織をつくっていけば、一部、心得違いの社員がいても、次第に良い方向に変わっていきます。一方、挨拶がなかったり、遅刻が常態化している組織は、やる気がある社員が入っても、悪い流れに染まり、トラブルが続発します。

ハラスメント問題の解決は、経営者や管理職が、働きがいのある強い組織をつくれるかにかかっているのです。(談)

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2017年4月号 「ハラスメント上司」と言われないために──部下の正しい愛し方

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