僧侶のための経営塾が開講へ 百年残る寺院を目指すというが……
2012.05.21
政治塾や経営塾がブームだが、ついに住職の塾が現れた。
18日付の産経新聞によると、現代人の寺院離れを食い止めるために寺院のあり方を変えようということで、経営学修士(MBA)を取得した京都市の僧侶が、宗派を超えて僧侶を養成する「未来の住職塾」を京都、東京などで開講するという。
講義は経営戦略やマーケティング、財務といった経営に関するテーマに特化し、100年後まで生き残る寺院を目指すという。ただし、寺院の経営は金儲けにあるのではなく、「檀信徒や地域住民の心を支えるために新たな価値を生み出すこと」と定義している。
異色であるのは、経営学の専門用語を仏教的に置き換えているところ。例えば、「顧客ニーズは、檀信徒が抱く生老病死などの『苦』、マーケティングは、慈悲の精神で檀信徒に何ができるか共有すること」などだ。
人々の苦しみを解くことは宗教の大切な役割だが、一部違和感もある。それは、宗教の根本である神仏の存在や信仰心、あの世の存在などがまったく説かれていないからだ。
本誌2011年11月号「誤解だらけの慰霊・鎮魂」では、伝統仏教各宗派にアンケート調査をしたところ、死後の人間はどうなるかという問いに、6つの宗派のうち5つの宗派がノーコメントであるかあの世を信じていないというものだった。
東日本大震災後、現地では幽霊が多く目撃されることがあったが、そういう人たちのために当時設けられた伝統宗教の相談窓口では、目撃者や遺族の心を、つまり生きている人の心を慰めることしかできていなかった。それならば宗教でなくてもやっている。
幽霊そのもの、つまり亡くなった方々の魂を救い、無事あの世に送ることができなければ慰霊にはならないし、それができてこそ遺族も救われる。それが宗教の使命でもある。
また、信仰心なき宗教行為には、本来は神仏への感謝行として差し出されたお布施も、単なる対価とみるといった経済行動のひとつに堕してしまうだろう。
このような講義が行われる背景に、「過疎の進行や核家族化などに伴う日本人の『寺院離れ』がある」と他人事のように記事には書いてあるが、寺院離れの理由は、マスコミが戦後、政教分離のもとに宗教を悪しきものように宣伝してきたことや、宗教者自身が信仰心を失い本来の使命を果たせなくなってしまったことにある。
残念ながら、正しい霊的知識と信仰心といった宗教の根本に立ち返らなくては、寺院離れを食い止めることはできないだろう。(純)
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2011年11月号記事 誤解だらけの慰霊・鎮魂
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