"異端の名店"の革新的な料理の誕生プロセスを追ったドキュメンタリー『ムガリッツ』
2025.09.28
全国公開中
《本記事のポイント》
- 創造的料理を生み出すチームの相互信頼
- 批判を創造の力に変える
- AIでは絶対生まれない料理
毎年11月から4月の半年間をメニュー開発に充てるため休業する、スペインの有名レストラン「ムガリッツ」。本作は、その革新的な料理が生み出される過程を追ったドキュメンタリーだ。
「ムガリッツ」はミシュランガイドに「レストランを超えた存在」と評され2つ星を獲得したスペイン・バスク地方の名店。その年に誕生した料理が翌年以降に提供されることはなく、革新的なメニューはつねに更新され続ける。
自身もムガリッツの熱心なファンであるパコ・プラサ監督が、その創造の秘密を解き明かすべく厨房に潜入し、研究開発チームやシェフたちによるメニュー開発の舞台裏を映し出す。
創造的料理を生み出すチームの相互信頼
このレストランのメニューは、空腹を満たすためでもなく、おいしさを追求したものでもない。客に、「残された人生をどう生きるかを考える」(オーナーシェフ、アンドニ・アドゥリス)ように導くべく、毎年新たに生み出されるものなのだ。
そのため1年の半分は休業し、その間に研究開発チームがアドゥリスの指揮の下、コンセプチュアルな料理の創造に邁進するのである。映画が撮影された2024年度の開発では、アドゥリスが「目に見えないもの」というコンセプトを提示し、そのコンセプトを実現すべく、精鋭ぞろいのシェフたちがかつてない料理の創作に没頭し始める。
興味深いのはアドゥリスがコンセプトを出すにとどめ、実際の創作はスタッフの自由に任せている点だ。
フーディ(料理評論家)で、同店に3度足を運んで料理を味わった浜田岳史氏は「アンドニ(アドゥリス)は、『ムガリッツ』という若いシェフたちの遊び場を作り、自由な創造性の発揮を外から邪魔されないように守ってあげている。その環境を維持するのは自分の役割である、という感じがすごくしますね」(パンフレットより)と指摘する。また同店でアドゥリスの下で修行した井上勝人氏(ザ・リッツ・カールトン京都エグゼクティブイタリアンシェフ)も「長いこと一緒にクリエイションして、彼の考えを深いところまで理解している人間がいるからできることだと思います」(同前)と語る。
チーム一人ひとりの個性を引き伸ばしながら、全体としてプラスをつくることの大切さについて、大川隆法・幸福の科学総裁は著書『愛することと愛されること』の中で次のように指摘している。
「仕事ができる人の場合は、自分で何でもやってしまうことも多いので、それでプラスになることもあるけれども、長い目で見ると、それだけではブラスとは言えないところがあるわけです。
ある人のところに仕事が集まって、その人がやってのけられるから、その人にやってもらうというだけで、"ほかの人は存在しているだけ"というのでもよくないのです。それぞれの人にちょっとずつ能力に目覚めてもらって、力を全体的に上げなければいけません。そうした、個人個人の能力を引き上げながら、全体としてプラスに上げていく能力が要ります」
「私が出したアイデアに対して、ラモン・ペリセ(研究開発チーム)がどう考えるか、ほかの開発チームがどう考えるか、ということをみんなで話し合いながら、実際に試食を通してメニューを作っていきます。自分ひとりでではなく、みんなでメニューを作っています」(同前)と語るアドゥリスだが、その姿は料理人というよりも、まるでオーケストラの指揮者のようでもある。
批判を創造の力に変える
「ムガリッツ」では、食事体験をより深めるために独自の「用語集」が客に配られる。シェフの哲学やビジョンを文章化したもので、客が自由に感想を書き込める欄があり、次回のメニュー開発に反映されることもあるのだという。
映画の中でも、昨シーズンの客の感想や反応が詳細に検討され、予想を超えたかつてない体験へとつなげるため、討論が何度も繰り返されていた。
創造的活動において、自分たちに向けられる批判を真正面から受け止めることの大切さについて、大川隆法総裁は次のように指摘している。
「批判を受けたときには、そういう批判があるということを、いちおう、念頭に置いて、『自分を照らす鏡』にしなければいけません。そのように、批判をしてくる人のなかにも、"先生役"になるような人はたくさんいます。ライバルや敵に当たるものからの批判は、意外に、『今、あなたが何をしなければいけないか』ということを教えてくれる、『「アイデアの宝庫』であることが多いのです」(『創造の法』より)
AIでは絶対生まれない料理
創造的かつ斬新な料理を生み出すために、あえて半年間の休業期間を設けるという決断をアドゥリスが続けている背景には、人工知能(AI)に席巻されつつある人間社会に対して、そのアンチテーゼを示したいという思いもあるようだ。
「私がひとつ言いたいのは、人間は非常にすばらしい存在であって、人類自身がAIが提供する以上のものを求めるだろうと。(中略)例えば市場に行ったとして、食材が2000種類あっても、人間がその中から6つだけ選んで料理を作る。AIは、何を使うかを決めるための助けにはなると思いますけれども、でもそこから人間が考えうる以上のものが出てくるかというと、私は疑問です。(中略)AIが出てきたからといって、私たちの人類としての能力、欲望、好奇心は、収まらないと思います」(パンフレットより)
未来社会に求められる人間の創造性の大切さについて、大川隆法総裁は『創造の法』の「まえがき」で次のように指摘している。
「これからの時代、過去の延長上に未来は築けないだろう。昨日の成功を今日は捨て去り、今日の成功を、明日は破壊し、さらなる創造の新境地を拓く。そうであってこそ、未来に生きる人たちにも夢が花咲くのだ。
だから川の流れに逆らって泳げ。世間の評価が定まったら終わりだと思え。いつも人と違ったことを考え、言い、実行せよ。チャンスは必ず、いつか巡ってくる。その時は、迷わずゲットせよ。それが新しき創造への道である」
「思考を刺激する料理」というコンセプトのもと、世界中の美食家を唸らせ、唯一無二の存在へと昇り詰めた。そのメニュー創作の過程に迫ったこの作品は、創造性という人間の持つ奥深い性質の可能性について、考えるヒントを与えてくれる。
『ムガリッツ』
- 【公開日】
- 全国公開中
- 【スタッフ】
- 監督:パコ・プラサ 製作:パブロ・イスラほか
- 【配給等】
- 配給:ギャガ
- 【その他】
- 2024年製作 | 96分 | スペイン
公式サイト https://gaga.ne.jp/mugaritzmovie/
【関連書籍】
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