94歳の現役狂言師、人間国宝・野村万作が探求する芸の境地を描いた映画『六つの顔』
2025.09.07
映画『六つの顔』本予告より。
全国公開中
《本記事のポイント》
- 94歳にして、さらなる高みを目指す
- 古典の中に宿る人類の叡智
- 歳とともに深みを増す人間への洞察
650年以上に渡り受け継がれてきた古典芸能「狂言」。その第一人者であり、94歳の今もなお現役で舞台に立ち続ける人間国宝の狂言師・野村万作氏は、2023年に文化勲章を受章。この映画は、受章記念公演が行われた一日を中心に、万作氏の過去と現在の姿を描いたものだ。
万作氏が記念公演で演じるのは、ライフワークとして取り組んできた、夫婦愛を描く狂言「川上」。映画では、万作氏が長年追求してきた世界観をその至芸とともに描き出している。
さらには、90年を超える芸歴のなかで先達たちから受け取り繋いできた想いや、今なお高みを目指して芸を追求し続ける万作氏の言葉を収めたインタビューも交え、息子・野村萬斎氏や孫・野村裕基氏をはじめとする次世代の狂言師と共に舞台に立つ模様を収録している。
94歳にして、さらなる高みを目指す
まず驚かされるのは、94歳という年齢にあっても、未だ到達すべき芸の高みに届いていないとする、万作氏の謙虚さと飽くなき情熱である。
万作氏が理想とするのは、師匠であり父でもあった六世万蔵。万蔵は、戦災を始めとする戦後の激動を乗り越えて狂言を伝え、新たな境地を拓き続けた。
万作氏は、父の開拓者精神を見習い、「絶えず新たな狂言の世界を探ってきた」と言う。しかし、79歳で世を去った父が到達した芸の境地に、自分はまだ達していないのだと繰り返し語る。
「笑いを超えた劇としての狂言の存在意義というものを一生懸命探ってきました。『ややあって また見る月の 高さかな』という父の句でいうと、それがどの程度の『また見る月の高さ』かは分かりませんが、まだまだ上の方に月があるような気がしているのです」
映画では、舞台に立つ前の姿見での衣装チェックで、頭巾のズレを繰り返し直す様子が描かれており、「姿形の美というものを大事にしてやっている」と言う万作氏の求道の努力が、毎日の凡事徹底の中にあることが感じ取られる。
この凡事徹底の大切さについて、大川隆法・幸福の科学総裁は著書『凡事徹底と成功への道』で次のように指摘している。
「『凡事徹底』とは『平凡な人間が、自分の平凡性を十分に自覚しつつ、五年、十年、二十年、三十年と長く、日夜、改善を続けていく』ということであり、そうしているうちに、次第しだいに力量が蓄えられていくのです。
それが、世の人々から認められる不動の地位を築いていくための心掛けの一つだと、私は考えています」
古典の中宿る人類の叡智
また、映画では、さまざまな試みにチャレンジしてきた万作氏が、晩年の今、改めて古典へと回帰していく様子も描かれている。
「新たに挑戦したいことは、もうあまりないですね。今はどちらかといえば古典をやりたい。今の時代に、今の私のこの年でやるべきものを演じたいと思っています。254曲という大変な数の狂言の中には、まだまだ素晴らしい作品がたくさんあります」
狂言は、約650年の歴史を持つ日本の伝統芸能であり、2008年にはユネスコ無形文化遺産にも登録された。狂言師という専門の役者が、自分の声や身体を駆使して、いろいろな物事がまるでそこにあるかのように演じるのが特徴だ。
歌舞伎や能とは違って、能面や派手な衣装もない。代々受け継がれている演目の台詞に、自らの思いを込めて、観る人に人間の真実を伝えるところに狂言の魅力があるのだろう。
狂言ファンでもある監督の犬道一心氏も、その魅力について「600年前の人間、自然やスピリチュアルな存在に接して、そこから現実に戻ってくるような感じがあって、能楽堂にいると滝に打たれているような『浄化される』感覚になる」(映画パンフレットより)と語っている。
こうした古典の持つ重要性について、大川総裁は次のように指摘する。
「『古典の時代』のもので、まだ今も生き延びているようなもののなかに、人類の叡智のようなものはあるので、もし、自宅で巣ごもりの時間などが増えてくるのであれば、そうした古典のものなどを読み直すべき時期が来ているのだと思うのです。『時代が変わっても、価値として遣っているものは何なのか』というところです。そういう古典を学ぶ必要はあると思うのです」(『自分を鍛える道』より)
歳とともに深みを増す人間への洞察
映画のクライマックスは、万作氏がライフワークとして取り組んできた古典「川上」である。
盲目の男が、願いを叶えてくれるという「川上」の地蔵に参詣し、その甲斐あって視力を得る。しかし、男の夢に現れた地蔵は、「視力と引き換えに、悪縁で結ばれている妻と離別せよ」という過酷な要求を告げる。視力か、尽くしてくれた妻か──、男は究極の選択を迫られる。笑いを本旨とする狂言においてはシリアスな異色作だ。
盲目の男を演じる万作氏は、前世からの因縁と真正面から向き合うことになった男の迷いと決断を、万感の思いを込めて演じる。そこには、90年以上の生涯をかけて磨き続け、高め続けてきた求道者としての深い境地がにじみ出ており、観る者の心を深く揺さぶる。
大川隆法総裁は、芸術作品においては「普遍的なものの影を宿しているかどうか」が極めて重要だとした上で、「芸術、芸能においては、千年前も二千年前も三千年前にも必要とされていたものが、実は、現代においても必要とされている。かつてとは人々の生活は変わり、風習は変わり、文化は変わっているけれども、そのなかに、変わらない永遠の真理があるのだ」ということです」(『仏法真理が拓く芸能新時代』)としている。
狂言という古典芸能の世界の中に、人間の真実の姿を探求し続けてきた"一人の求道者"を描いたこの作品は、芸術における普遍性とは何かについて、改めて思いを致すきっかけとなることだろう。
『六つの顔』
- 【公開日】
- 全国公開中
- 【スタッフ】
- 監督:犬童一心
- 【キャスト】
- 出演:野村万作 野村萬斎 野村裕基ほか
- 【配給等】
- 配給:カルチュア・パブリッシャー
- 【その他】
- 2025年製作 | 82分 | 日本
公式サイト https://www.culture-pub.jp/six-face/
【関連書籍】
いずれも 大川隆法著 幸福の科学出版
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