Netflix版『三体』が描く残酷な「文化大革命」と、それを隠したい習近平主席【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2024.04.08
アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
中国のSF作家、劉慈欣の作品『三体(Three Body Problem)』が米国のNetflixでリメイクされ、3月に公開され話題になっている。
劉慈欣は2009年から2010年にかけて、『三体』と呼ばれるSF小説シリーズを発表した(*1)。シリーズは『三体1:地球往事』、『三体2:暗黒森林』、『三体3:死神永生』の三部作からなる。
『三体』は、地球文明と「三体文明」の相互依存と拮抗の関係を描いた物語である。宇宙は暗い森のようなもので、あらゆる文明は銃を持ったハンターであり、最初に暴露された者は最初に滅ぼされる。依然、人類は暗黒の宇宙に晒されており、世界を救う重荷は中国人にのしかかる──というのがその舞台設定である。
1963年に山西省陽泉で生まれた劉慈欣は、SFを書き始めた1989年以降、『三体』の出版まで山西省の国有大企業でエンジニア兼マネージャーとして働いてきた。
(*1)2014年5月27日付『ニューヨーク・タイムズ中文網』
「三体」の冒頭は「文化大革命」の残酷シーン
Netflix版「三体」第1話の冒頭部分で、「文化大革命」時の極めて血なまぐさい残酷なシーンが映し出されていることが波紋を呼んでいる。
北京の清華大学で天体物理学を学ぶ女子大学生、葉文潔(ドラマ中の重要人物で、宇宙と交信)は、著名な物理学者であった父、葉哲泰を文化大革命で失った。娘は父が紅衛兵に撲殺されるのを目撃している。
作者の考えでは、「文革」は中国人民の集団的な辛い記憶であり、その時代に育った現在の共産党幹部たちも犠牲者である。
政治評論家の唐浩は『X』で、このシリーズについて次のように述べている。
「第1に『文革』の残酷さ、人間道徳の破壊を再現し、第2に、中国共産党が人民を操作するため、どのように集団的恐怖を作り出しているかを再現した。第3に、中国共産党による人民に対する『無神論』の押し付けと神仏に対する憎悪の愚かさを明らかにしている」
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