習近平主席、"盟友"の「紅二代」にも刃を向け始める!?【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2020.10.27
《本記事のポイント》
- 「紅二代」の雄・任志強に実刑判決
- 二人三脚で「反腐敗」を行った王岐山も、部下が失脚
- 「紅二代」が四分五裂している
習近平・中国国家主席は、毛沢東らと共産革命に参加した長老らの子弟である「太子党・紅二代」というグループに属している。その「紅二代」が昨今、四分五裂している。
「紅二代」の雄・任志強に実刑判決
「紅二代」の代表人物の一人である任志強に対して、北京市第二中級法院(地裁)は9月22日、懲役18年、罰金420万元(約6300万円)の実刑を言い渡した。
任は1993年、政府系の北京市華遠集団と北京市華遠集団公司が成立した際、北京政府よりトップに任命された。華遠集団は当初、不動産開発企業だったが、金融、ハイテク、国際観光、不動産管理、外食分野等にも事業を展開するようになった。任はその事業手腕と、歯に衣着せぬ物言いから、「中国のトランプ」と言われることもあった。
そんな任が2月、SNS上に「人民の生活はウイルスと(一党独裁)体制の深刻な病気によって害されている」という文章を投稿した。その中で、習近平主席を「裸になっても皇帝を演じ続ける道化師」と揶揄したこともあり、翌3月、当局に拘束された。
任は共産党籍を剥奪された上、贈収賄等の4つの罪状で、重罪に処された。習主席は同じ「紅二代」であっても、自分に対する批判は絶対に許さない方針で臨んでいることが分かる。
中国は2審制であるが、任が控訴しても罪は軽くならないはずである。かえって、党に逆らったとして罪がさらに重くなる場合もある。したがって、任は控訴しない公算が大きい。
二人三脚で「反腐敗」を行った王岐山とも亀裂!?
今回の件で注目されたのは、「任を守っていたはずのある人物が動けなかった」という観測だ。
実は任は2016年にも、習主席のプロパガンダ政策をめぐり、批判的コメントをネットに投稿した。任は党幹部への率直な批判で「任大砲」の異名をとる人気のブロガーだった。当時、3700万人以上のフォローワーがいたのである。任のアカウントはまもなく、当局に閉鎖された。
だが、任は党籍を剥奪されず、1年間の観察処分を受けただけの軽い処分で済んだのである。この時、任を守ったのが、任と親しい間柄である王岐山副主席と言われている。
よく知られているように、「反腐敗」運動では、習主席と王は二人三脚で党内の政敵を打倒した。王の口利きがあって、習主席は追及の手を緩めたのかもしれない。
しかし王も今回ばかりは、任を守り切れなかった可能性がある。というもの、王と習主席との間にも、亀裂が入ったと噂されているのだ。
現在、中国共産党19期5中全会が開催されている。その直前、王の部下だった董宏が突然、失脚したのだ。董は党の「重大な規律違反」(汚職・腐敗)をしたという理由で、規律審査と監察調査を受けている。
王が中央紀律検査委員会書記時代、董宏は中央第12巡視チーム組長、弁公庁調査研究室第5チーム組長を務めた。董は長い間、王の右腕だったのである。
中国共産党の党内闘争においては、よく敵対勢力の部下を狙い撃ちにする。「将を射んと欲すればまず馬を射よ」の喩えの如く、武将を討つ場合、まず、馬を狙う。その後、本丸である敵を撃破する。
王も習主席と敵対し、"ロックオン"されている可能性がある。
習主席が王と共に進めた「反腐敗」運動では、習氏を主席として担いでくれた「上海閥」(=江沢民系)が狙い撃ちにあった。この通り習主席は、権力基盤を固めるために手を組んだ相手を、用済みになると切り捨てている。王も似たような目に遭うのだろうか。しかしそうした手法は、敵を増やし、孤立を招くことなる。
5中全会がどのような結果を迎えるのか、予断を許さない。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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