日大タックル選手に同情集まる 仏典に残る“そっくり”な逸話
2018.05.24
《本記事のポイント》
- 日大選手、反則タックルの裏に監督の指示
- 仏典に残る「悲劇の加害者」、アングリマーラとは?
- 罪と向き合った結果、後世の尊敬を得た理由
「悲劇の加害者」のざんげに、動揺と同情が広がっている。
大学アメリカンフットボールの試合で、日本大学の宮川泰介選手(20)が、関西学院大学のクオーターバック(QB)に悪質な反則タックルをしかけて負傷させた。この問題について、宮川選手は22日、都内の日本記者クラブで会見を開き、タックルをしかけた背景に、内田正人前監督とコーチの指示があったことを告白した。
宮川選手は、実戦練習でのプレーが悪かったという理由で試合メンバーから外されていた。さらに、内田前監督からも、大学世界選手権大会への出場を辞退するよう指示されたという。そんな宮川選手が、監督、コーチから告げられたのは「相手のQBを1プレー目で潰せば試合に出してやる」という言葉だった。
追い詰められていた宮川選手は、監督に「相手のQBを潰すので使ってください」と伝えた。試合直前にも、「やらなきゃ意味ないよ」と釘を刺されたという。
宮川選手は会見で、「あの時の自分はそのこと(反則行為をしないこと)は考えられなかった。1週間で追い詰められ、やらないという選択肢はない状態になっていた」と振り返りつつも、「監督、コーチの指示があったとはいえ、僕がやったことは変わらない。とても反省しています。プレーに及ぶ前に自分で正常な判断をするべきだった」とざんげした。
パワハラとでもいうべき理不尽な圧力があったということだが、今回の問題で宮川選手のアメフト生命は事実上、絶たれそうだ。
それについて、試合相手だった関学大の鳥内秀晃監督は「かわいそう……」とコメント。ネット上などでも、宮川選手への同情の声が広がっている。
仏典にも残る「悲劇の加害者」
指導者の命令に従って罪を犯し、キャリアや人生を棒に振る――。こうした「悲劇の加害者」は、仏典にも描かれている。それが、盗賊アングリマーラの逸話だ。
アングリマーラは聡明な美しい青年で、バラモン(祭祀)に師事し、古代インドの聖典であるヴェーダを学んでいた。
しかしある日、師の留守中、その夫人が誘惑してくる。アングリマーラはきっぱりと断った。傷ついた妻は帰ってきた夫に、「アングリマーラに乱暴された」と嘘をつく。
怒ったバラモンの師は、弟子のアングリマーラに恐ろしい命令を下す。「100人の人間を殺して、その指で首飾りをつくれば、おまえの修行は完成する」と告げたのだ。彼は戸惑いながらも師の言葉を信じ、コーサラ国の首都・舎衛城の街で、殺人を始めた。
その結果、アングリマーラは殺人鬼として恐れられるようになる。本人の精神も狂気で満たされ、ついには自分の母親まで殺そうと思うに至った。「修行の完成」という免状のために、師の指示に忠実に従ったばっかりに、破滅への道まっしぐらとなってしまったのだ。
仏陀の弟子として苦しい修行をした果てに……
「かわいそう」だが、取り返しのつかない罪を犯した青年はその後、どうなったのか。
アングリマーラがすでに99人を殺し、あと1人で「修行が完成」すると躍起になっていた時だった。目の前に現れた仏陀に、一瞬にして諭され、我にかえって自らの行いが罪であったことを悟る。そして彼は仏陀の弟子となり、教団で修行をすることにしたのだ。
彼は罪を清めるために、必死に修行をする。しかし街の人々は、99人を殺めた殺人鬼を許すことはとうていできない。彼が托鉢に行っても、何も得られないどころか、人々に石を投げつけられ、毎日、血だらけになって帰ってきた。
それでもアングリマーラは、長年、必死に耐えて修行を続けた。
そんなある時、アングリマーラが托鉢に出かけていると、難産で苦しむ女性に出会った。しかし、なすすべがなかった彼は、戻って仏陀にどうすればいいか尋ねる。
仏陀の答えは驚くべきものだった。それは、「自分は生まれてから一度も人を殺めたことがない。その徳の力で、母子は救われる」という「偈(詩句)」を唱えよというものだった。アングリマーラは戸惑いながらも、その「偈」を唱える。すると、無事に子供が生まれたという。
その後も、アングリマーラは高い悟りを開き、人々に尊敬されるようになった。実際、インドには彼を祀るストゥーパ(仏塔)が建っている。
そしてこの逸話は、長く歴史に残り、多くの罪に苦しむ人たちを救い続けている。
宮川選手は確かに罪を犯した。しかし、その罪と向き合う中で、悟りを深め、いつか誰かを助けられる存在になれる――。そう祈らずにはいられない。
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