元政府幹部の脱北者が語る 北朝鮮を生き返らせた韓国の「太陽政策」(前編)

2017.06.03

(写真はイメージです)

北朝鮮がミサイルの発射を繰り返して周辺国を威嚇する中で、韓国には、北朝鮮に融和的な文在寅(ムン・ジェイン)新大統領が誕生しました。

全国の書店でこのほど発売された本誌7月号の特集「脅威は『北』だけじゃない 文在寅韓国大統領は金正恩より怖い」では、大統領選挙中から文氏の親北姿勢に警鐘を鳴らしてきた、元北朝鮮政府幹部の脱北者、都明学(ド・ミョンハク)氏にインタビューしました。

紙幅の関係で紹介し切れなかったインタビューのロングバージョンを、2回に分けて掲載します。今回は、その前編です。

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友人に密告され、監獄に2年間入れられる

北朝鮮亡命作家

都明学

(ド・ミョンハク)1965年、北朝鮮生まれ。金日成総合大学朝鮮語文学部創作科を修了。朝鮮作家同盟所属の詩人として、体制賛美の作品を制作。反体制的作品を密かに書き溜めていたところを友人に密告され、2004年に投獄。06年に出獄後、脱北し韓国に亡命。現在、亡命北朝鮮作家センター理事。16年、北朝鮮人権映画祭に出品。

私は、2004年まで北朝鮮でいわゆる北朝鮮政府の御用学者として、小説や詩をつくる作家業をしていました。北朝鮮で作家は幹部とみなされ、当時の最高指導者である金正日(キム・ジョンイル)からの指示の内容なども見ることができました。

私は、密かに金正日の思想を揶揄(やゆ)する詩の原稿を書き溜めていました。ある日、親しくなった写真作家の友人と金正日の悪口を言い合い、その人に反体制的作品の原稿を見せました。ところが彼は政府の密偵だったので、私の原稿をこっそり写真に撮り、それを保衛部に見せて密告したのです。

私は政治犯として捕まり、約2年間、監獄で取り調べを受けながら過ごしました。監獄の中で死んでしまう人、殺される人、あるいは政治犯の収容所送りになった人などをたくさん見てきました。私も死にかけましたが、何とか生き延びて釈放されました。監獄の責任者は、「ここで10年間勤務したが、この10年の間でここから生きたまま釈放された人は、あなたが2人目だ」と言っていました。

釈放されてから1カ月半後に北朝鮮から脱出しました。保衛部の幹部の中に友人がいて、その人が私に「お前を再調査する運びになっている」と耳打ちしてくれたからです。またあの監獄に連れて行かれたら、今度こそ生きては出られないと思い、必死になって逃げ出したのです。

金正恩を慕う国民は少ない

私は党内部、保衛部、警察に友人がいましたが、現在の金正恩(キム・ジョンウン)政権に忠誠を尽くすような人は、「事実上いない」といえると思います。現在の北朝鮮体制が不条理であることは誰もが分かっていますが、当面はこの体制下で生きていかなければならないので、生きるためにやむなく忠誠心があるように装っているだけです。

金正日政権の時、国民は失望や幻滅はしても、憎悪まではしていませんでした。金正日は金日成(キム・イルソン)の後継者としてさまざまな事業を行い、北朝鮮の文学芸術のレベルを高め、平壌の一定の発展を支えた功績があります。

しかし、金正恩は功績がないばかりか、海外との緊張を高める行動を繰り返しています。北朝鮮の国民からは、「あの野郎、明日にでも死んでしまえ」というほどに嫌われています。金正恩もそれを分かっているので、身辺の安全に細心の注意を払い、国内の取り締まりに重点を置いています。

海外の人は、金正恩による核兵器の開発を国民が喜んでいると誤解しているかもしれません。北朝鮮の国民は、表に立たされれば、「万歳!」と叫びますが、裏では、「あんな核兵器ができたからといって何ができる」「こんな核一つでアメリカに勝てるわけがない」などとぼやいています。人工衛星の打ち上げに成功した際にも、暮らし向きが苦しい国民は、「金属の塊を打ち上げたからといって、我々の生活はどうなるというのだ」と冷めた目で見ていました。

太陽政策さえなければ北朝鮮は瓦解した

私が韓国に亡命してきた2006年は、韓国の金大中(キム・デジュン)政権が北朝鮮に対して融和的な「太陽政策」を取っていた時期です。私は、この太陽政策が北朝鮮に何をもたらしたか、韓国から入ってきた支援がどのように悪用されたかを実際に見聞きしました。

あの太陽政策さえなければ、北朝鮮の金正日政権は持ちこたえることができず、崩壊したはずです。当時、朝鮮は飢饉と経済的困難にあえいでおり、監獄にすら食べ物がないので、政治犯などを刑務所に入れることさえできないほどでした。法がまともに執行されず、上からの支持も伝わらず、国がバラバラに瓦解する寸前でした。実際に金正日は2006年、党中央委員会からの指示文で、「建国以来最大の危機である。国家システムがすべて乱れてしまった」と述べています。

そんな状態の北朝鮮に、韓国の「太陽政策」の一環で救援物資が入ってくるようになりました。死にかかっていた北朝鮮は、韓国の支援で生き返りました。生き返って何をしたか。2006年の第1回目の核実験です。核実験ができるほど、生命力が強くなったのです。

それでも金正日は当時、軍隊や国家体制も建て直す必要があったため、韓国からもらった救援物資のすべてを国民に与えるわけにはいかず、飢えた国民にどれほど支給すべきか、一応は悩んでいたそうです。結局、国民は後回しになりましたが。こうした仕打ちを受けた国民は次第に、「国に助けてもらおう」とは思わなくなり、自立するようになりました。

ところが今の金正恩政権は、国民が政府からの支援を期待していないのを良いことに、海外からの支援は政権の強化に使っても良いものと開き直っています。北朝鮮の国民は、金正恩を信じたら飢えて死ぬと分かっているので、政府には何も期待していません。支援物資がそのまま核やミサイル開発に使われるという今の北朝鮮に対し、文氏が太陽政策で援助などをしたらどうなるのか。金正恩政権にとってはたいへん好都合でしょう。

韓国で新たに文政権が始まり、かつて、金大中や盧武鉉(ノ・ムヒョン)が行った太陽政策に回帰すれば、北朝鮮の核ミサイル開発を勢いづけてしまうだけです。

私たち脱北者は、文氏の舵取りに憂慮しています。文氏が韓国を率いていく中で、自らの考えの間違いに気づき、国際社会と歩調を合わせて北朝鮮への制裁などをする方向へと転換してくれることを願っています。

(後編に続く)

【関連サイト】

トランプは動く!アメリカvs.北朝鮮の戦争に備えよ

https://hr-party.jp/special/Northkorea/

【関連書籍】

幸福の科学出版 『文在寅 韓国新大統領守護霊インタビュー』 大川隆法著

https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1860

【関連記事】

2017年5月15日付本欄 文在寅政権誕生、日本にとっての3大リスク ちっとも「平和的」ではない

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12993

2017年7月号 脅威は「北」だけじゃない 文在寅韓国大統領は金正恩より怖い

http://the-liberty.com/article.php?item_id=13048

2017年5月23日付本欄 新しい韓国の文在寅大統領が、トンデモ政策を行う可能性が高い理由

http://the-liberty.com/article.php?item_id=13021


タグ: 北朝鮮  姜哲煥  強制収容所  核開発  インタビュー  民主化  都明学  文在寅  脱北者  韓国  人権 

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