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《本記事のポイント》

  • 日本にとっての「核リスク」が増す――トランプ氏動けず時間稼ぎ
  • 反日歴史戦の再開――慰安婦少女像は韓国の「リンカン像」
  • 「核保有」「反日」の統一朝鮮が対馬の向こうに――意外と近い韓国と北朝鮮

緊迫する朝鮮半島に、文在寅政権という新たな混乱要素が生まれた。

「親北・反日」と言われ、何となく危険なイメージのある同政権だが、日本にとって具体的にどのようなリスクがあるのか。3つに絞って紹介したい。

(1)日本にとっての「核リスク」が増す――トランプ氏動けず時間稼ぎ

まず、文政権の誕生は、北朝鮮にとって核ミサイル開発の時間稼ぎになる可能性が高い。

政権誕生について、米主要紙は次のような主旨で懸念を示している。

「新大統領は南北融和と北朝鮮との共同事業を推奨してきた。これは、制裁の強化に進むトランプ氏の戦略に反する」(9日付米ワシントン・ポスト紙)

「文氏の北朝鮮への融和政策は、トランプ政権の対応を複雑にしている。核の脅威を終わらせるたった一つの可能性は、北朝鮮とそのパトロンである中国に対して、米韓が共同戦線をとる以外にない」(10日付米ウォール・ストリート・ジャーナル紙)

「米韓中の不和は、北朝鮮の動きを促すことになるだけだ」(11日付米ニューヨークタイムズ紙)

アメリカから見て、文政権がいかに北非核化の妨げになるかが伺える。

北朝鮮がさらなる核実験を行っても、韓国が望まなければ、アメリカが攻撃する正当性は低くなる。トランプ氏が軍事行動に出ようとしても、韓国軍の指揮権を持つ文氏の協力が得られなければ、断念せざるを得なくなるかもしれない。

金正恩氏もそのことを見越して、アメリカの意志を軽く見るようになるだろう。つまり、圧力の効果が半減するということだ。

また、トランプ氏が文氏と対北戦略を調整している間に、北はさらにミサイル開発を進められる。実際、北は15日早朝、新型と思われるミサイルを日本海に発射した。

この時間稼ぎで割を食うのは、アメリカよりも、日本の方だ。

まず、日本に向いているミサイルの精度はさらに増す。

さらに、アメリカ本土に届く核を搭載したICBM(大陸間弾道ミサイル)が完成するだろう。そうなれば、アメリカは北に圧力をかける際に、自国民を核のリスクにさらすことになる。日本に対して、「すまない。私たちは、前のように、気軽に君たちを助けられなくなった」と言わなければいけなくなる。

アメリカ自身がローリスクで北朝鮮に圧力をかけられるかどうか――。その「レッドライン」が超えられるかもしれない大事なタイミングで、文政権の誕生は大きな番狂わせとなった。

(2)反日歴史戦の再開――慰安婦少女像は韓国の「リンカン像」

文政権誕生の第二のリスクは、激しい「反日歴史戦」が再び仕掛けられる可能性があることだ。

文氏の政治信条は、日本人が思うよりも「反日」に支えられている。彼は、次のような歴史観に影響を受けていると言われている。

「私たち朝鮮民族は永らく、日本に虐げられてきた。大戦後、ようやく独立したにも関わらず、一部の親日的な朝鮮人が国を建てた。それが韓国だ。この流れを汲むのが、朴槿恵(パククネ)をはじめとする保守政党だ。そして、日本に屈せずに戦ってきたのが、金日成から始まる北朝鮮だ。同胞が南北に分断されているのも、日本が悪い」

つまり、文氏の求心力となっている「反・保守政権」の奥には「反日」がある。北朝鮮への親近感の奥にも「反日」がある。今後、文政権が韓国、そして南北朝鮮を一つにするため、「反日歴史戦」にどれだけの情熱をかける可能性があるのかが見えてくる。

歴史戦はまず、世間を騒がせている「日韓合意」の見直しから始まるだろう。

文氏はかつて、「(慰安婦の)少女像設置は真の独立宣言だ」と言ったことがある。彼にとって少女像は、1ドル札のワシントンのような建国の原点。そして、リンカン像のような、国家統一の象徴にもなる。

さらに今年は、ユネスコの「世界の記憶」(旧・記憶遺産)に「慰安婦」に関する文書が申請されている。韓国の民間団体は、慰安婦像の次には「強制徴用工」の像まで立てようとしている。日本企業への損害賠償請求訴訟なども加速するかもしれない。

様々な火種に乗じて、政権が強硬な姿勢を取ってくる可能性が高い。

日本政府としては「対北朝鮮問題がある中、日米韓の足並みを乱したくない」などとして、さらなる譲歩の誘惑に駆られる可能性がある。

(3)「核保有」「反日」の統一朝鮮が対馬の向こうに――意外と近い韓国と北朝鮮

第三の、そして最大のリスクは「反日・統一朝鮮」の誕生だ。

文氏は過去に、「北朝鮮との低い程度の連邦制を実現する」と訴えている。

「そんなこと、韓国国民が受け入れない」と思うかもしれない。しかし、韓国民にとって、「南北統一」は「北朝鮮と戦争をしないで済む確実な方法」でもある。

韓国は、日本よりも北朝鮮のミサイルの被害を受けやすい。

日本であれば、ミサイルが日本海を飛んでいる間に、迎撃する猶予がある。Jアラートが鳴ってから避難する余地も、わずかだがある(正常に作動すれば)。

しかし北朝鮮と国境を接する韓国に、その猶予はほとんどない。北朝鮮による「ソウルを火の海にする」という発表は、日本人が思っているよりも韓国人の心理に効いている。

さらに忘れてはならないのは、韓国が兵役制だということだ。もし北朝鮮との戦闘が始まれば、若者が戦場に送られ、母親たちはそれを見送らなければならなくなる。

今回、対北融和派の文政権が誕生した背景には、目前に迫った北朝鮮との戦争リスクに怯えた人々がいたからとも言われている。

そもそも韓国と北朝鮮の体制は、日本人が思っているほどかけ離れてはいない。

韓国も民主化が宣言されたのは、30年ほど前に過ぎない。歴代大統領が、役目を終えてから必ず社会的に抹殺されているように、北と同じ「人治主義」は根強い。親日的発言をしてきた言論人・呉善花氏が入国拒否されたり、政権に都合の悪い記事を書いた産経新聞支局長が起訴されたりもしている。

そう考えると、韓国国民が「完全な統一ではない、緩い連邦制程度ならいいか」と思う可能性もある。

90%以上のメディアを敵に回したトランプ氏が大統領選で勝ち、イギリスがEUから離脱するまさかの判断をした。国際政治においては何が起きるか分からない。

もし金王朝が残ったまま南北統一がなされたら、「反日」という理念で統合され、核兵器を保有した国家が、対馬海峡を隔てた隣に出現することになる。さらに、在韓米軍もいなくなる。

いたずらに危機を煽るわけではないが、日本としては最悪の事態を想定して備えたいところだ。

(馬場光太郎)

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