《本記事のポイント》

  • 安倍首相は憲法9条1項、2項を維持した上で自衛隊に関する条文追加の方針を発表
  • それでは「戦えない自衛隊」を条文化するようなもの
  • 保守も左翼も抱き込むやり方にだまされてはいけない

憲法記念日に都内で開かれた改憲派の集会に、安倍晋三首相がビデオメッセージを寄せ、2020年までに憲法改正を実現する方針を発表した。たびたび議論に上る9条については、現行の9条1項、2項を維持した上で、自衛隊に関する条文を追加するという。

北朝鮮の核ミサイルがいつ飛んでくるかという状況の中、9条改正を目指すのは当然のことだ。だが、今回の安倍首相が示した方針は、「自衛のための戦いすらままならない」現状をつくりだしている9条の誤りを固定し、むしろ強めてしまう結果になるだろう。

「戦えない自衛隊」が定着する

戦後、アメリカに押し付けられた憲法により、日本は国防の手足を縛られてしまった。

中国漁船が尖閣諸島周辺の領海に入ってきても、北朝鮮が着々と核ミサイルを開発していても、9条がネックとなり、自国を守る手段は極めて限られている。それどころか、「自分の国は自分で守る」という国家としての気概さえ失われてしまった。

保守層はこうした状況を問題視し、以前から憲法改正を訴えてきた安倍首相に期待をかけてきた。そのため、今回の発言に「いよいよ改正に踏み出すか」との期待も高まっている。

ただ、安倍首相の発言内容をよく見れば、"改正"と言っても、危機に際して戦うことのできない自衛隊の位置づけは何ら変わらない。

むしろ、「白馬は馬に非ず」とでも言うかのような「自衛隊は憲法で禁じられた軍隊や戦力ではない」という無理のある解釈論を憲法にわざわざ書き込み、条文化する弊害の方が大きい。自衛隊を「国を守るために戦う軍隊」と定義し直す機会が失われるからだ。

9条1項、2項の改正に手をつけない限り、自衛隊は警察と同等の行動しかできない。他国から日本に向けてミサイルが発射される兆候があっても敵基地を攻撃する戦力を持てなかったり、実際に撃たれてからでなければ反撃できなかったりという「戦えない自衛隊」の現状は変わらないのだ。

国の交戦権を認めず、戦力を保持しないままの自衛隊が憲法上の存在となるのは、国の主権を考えない、情けない政治と言わざるを得ない。

解釈論と条文の改定を混同していることに気づかないなら、安倍首相のリーガルマインドは低いといわざるを得ない。もし、分かってやっているならば、これほど国民を馬鹿にした議論もないだろう。

中国や北朝鮮も大喜びの"改正"

とはいえ、歴代政権が誰もできなかった憲法改正に手をつけるとなれば、保守層は「安倍首相は実行力がある」と一定の評価を下すだろう。

憲法9条を絶対視し、改正に反対し続ける護憲派の共産党や民進党にとっても、「戦力ではない自衛隊」を一切変えない安倍首相の案ならば、乗ることができる。国民の大半が支持している自衛隊の存在を憲法に書き込むことについては、どの政党も大きな反対の声は上げにくい。

それどころか、中国や北朝鮮でさえ反対しないかもしれない。「戦力を持たない」「他国と戦わない」という「半主権国家」が維持され、日本における憲法改正の議論が落ち着くなら、彼らは内心では大喜びだろう。

どこからも反対が出にくい提言で、右も左も抱き込もうとする姿勢は、2015年に発表された安倍談話にも見られた安倍首相お得意のパターンだ。ハッキリとモノを言わず、ナメクジ的なヌメヌメ、ドロドロした政治のあり方に、もうだまされてはならない。

憲法改正の目的は主権を取り戻すこと

当初、安倍首相が改憲を目指していたのは、「国家を守るための軍隊、戦力を持つ」という主権国家として当然の権利を取り戻し、戦後体制を終わらせる目的があったはずだ。

だがいつの間にか、憲法改正は自らの政権維持のための手段に成り下がってしまったようだ。今回の案が通れば、自分の国を自分で守ることができない9条の"精神"は半永久的に守られることとなり、むしろ戦後体制は強化されるだろう。

国家と国民の安全を守るため、軍隊と戦力を持つことを憲法に明記してこそ、主権を取り戻すことができる。その意味で、憲法改正は命がけの仕事となるだろう。そうした覚悟がなく、国民の目を欺くための憲法改正発言なら、一日も早く撤回するべきだ。

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幸福の科学出版 『「現行日本国憲法」をどう考えるべきか』 大川隆法著

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2015年8月号 憲法の目的は国民の幸福の実現 - 安保法制の整備を急げ - The Liberty Opinion 3

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