2022年3月号記事

ニッポンの無駄!

『減量の経済学』とは何か

ムダ3

ハゲタカファンドは"要らない仕事"

─稲盛型JAL再建との違いとは─

1990年代後半の金融危機以降、日本を代表する金融機関や事業会社を続々と傘下に収めていったハゲタカファンド。
その問題は一体、どこにあるのか。


新型コロナウィルスの感染拡大で多くの企業が疲弊している。今後の金融機関からの追加融資次第で、財務状況が悪化する企業はこれから本格的に増えてくるだろう。そうした状況を見据えて、企業再生ファンド、あるいはハゲタカファンドと言えるものの設立も続いている。


「ハゲタカ」の本質は数字の操作

ハゲタカファンドとは、「債務超過になった企業の債権などを銀行から買い取り、財務状況を改善させた後に高値で転売するファンド」のことだが、その実態は「傾いた会社を買収して人員のリストラをかけ、不良部分を切って値上がりした株を高値で売り抜ける」と言った方が分かりやすいだろう。こうした再建手法を取る理由を、「身の丈(実力)に合うサイズに変えてあげて自信を持たせるため」という言い方をするファンド関係者もいる。

しかし、大川総裁はこうした現状を、「投機的なものの考え方で(中略)、本当に"数字だけ"、"数字上だけの動き"でお金を儲けようとする人たちがいっぱいいる」と喝破。そしてこういう仕事が「要するに、要らない仕事」なのだと言い切る(*)。

(*)『減量の経済学


「ハゲタカ」はビジネスの邪道

経済学者

鈴木 真実哉

鈴木真実哉
(すずき・まみや)早稲田大学卒。同大学大学院経済学研究科博士後期過程単位取得後退学。聖学院大学教授などを経て、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)経営成功学部ディーン。(すずき・まみや)早稲田大学卒。同大学大学院経済学研究科博士後期過程単位取得後退学。聖学院大学教授などを経て、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)経営成功学部ディーン。

ハゲタカファンドの何が問題なのか。経済学者の鈴木真実哉氏は、こう述べる。

「ハゲタカファンドの手法は、『マネーゲーム』と呼ばれることが多いです。つまりゲームの勝者と敗者が存在し、勝者がどれだけお金を取れるか、でしかありません。利益は計上できても、技術革新や生産性の向上などの価値を全く生みません。こうしたゲーム的業務というのは、ビジネスとしては邪道です。会社が不調の時、無駄なコスト削減、利益部門への集中・拡大は大事です。しかし重要なのは、景気や会社の調子が悪いからこそ将来を見据えて思い切ったイノベーションに取り組むことです」


経費削減だけでは会社は再生しない

例えば、2010年1月、2兆円以上の戦後最大の負債を抱えて経営破たんした日本航空(JAL)は、企業の"人"を改革することで再建された。

JALの会長に就任した稲盛和夫氏は、これまでの官製企業の悪習を一掃し、社員一人ひとりに経営者意識を持たせることに注力。そして「経費最小、利益最大」を掲げるも、単なるコストカットには陥らない。営業利益率は最大でも3パーセントとの業界常識を覆し、10パーセントを目標に置いた。

さらに航空便の運行計画を、予約状況に応じて臨機応変に対応する仕組みに変えて顧客を増やし、従業員のサービスの質を向上させて固定ファンを取り戻すなど、あらゆる手を使って利益を大幅に改善。結果、翌期には営業利益1884億円を上げ、世界の航空業界の中で最も高収益な会社に生まれ変わり、12年9月には、短期間で再上場を果たしたのだ。

確かに痛みを伴う大幅な人員削減もあった。しかしコストカット中心の再建プランだけでは、企業は本当の意味で再建されない。新たな価値を生み出せる"創造的なイノベーション"にまで踏み込めるかどうかが、ハゲタカファンドとの運命を分ける。

「数字上の自己の利益だけを求める」のか、それとも「事業の存続によって社会への貢献を果たしたい」という高邁な理念の下に動くのか。後者の理想と情熱がないハゲタカファンドは、やはり不幸を生み出すだけの「要らない仕事」なのだ。

 

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