《本記事のポイント》

  • イスラエルの反撃が開始された
  • そもそもイスラエルはなぜイラン大使館を空爆したのか?
  • イランのミサイル攻撃の真意

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

欧米の複数のメディアは19日、イスラエルがイランに同日反撃したと報じました。

現地メディアは地元関係者の話として、イスファハン州の北西で爆発音が聞こえたと報じている。イスファハン空港や空軍基地に近い地域で、同州にはイランの核施設もある。イラン国営メディアによると、核施設は被害を受けていない。

米政府高官が、イスラエルは、「(イスラエル人が隷属から解放され、エジプトを脱出したことを祝うユダヤ教の休日である)過越祭が終わる4月30日より前にイランを攻撃する可能性は低いようだ」と語っていた矢先でした。

イスラエルの反撃表明

イスラエルメディアN12は4月15日、「戦時内閣がイランに対して明確かつ強力な反撃を行うと決定した」と報じ、イスラエル軍によるイラン攻撃が始まる公算が大きくなっていました。

また翌16日、イスラエルはイランに対して「戦略的な知恵に基づいて行動し、自らが選んだ場所、時間、方法で対応する」と公表(*1)。近日中にイランに対し反撃を開始する緊迫感は高まっていました。

一方でアメリカはイランとの戦争を望んでいないと報道されていますが、アメリカの真意は図りかねる部分があります。BBCの報道によると、バイデン米大統領は、「イスラエルのネタニヤフ首相と電話会談し、アメリカはイランに対するいかなる報復攻撃にも参加するつもりはない」と警告した一方で、イランに反撃しないようイスラエルに警告したかどうかについては、政府高官は明言を避け、「それはイスラエルが計算しなければならないことだ」とだけ述べています(*2)。

同日のキャメロン英外務相とネタニヤフ首相の会談でも、キャメロン氏は「どのような対応も『賢く』、かつ限定的であるべきだ」とネタニヤフ氏に伝えており、イスラエルが攻撃すること自体は止められないといった雰囲気でした(*3)。

中東の大国同士の戦争は拡大していくのでしょうか? 両国の真意はどこにあるのかを知るために、これまでの経緯を振り返っておきましょう。

(*1)THE TIMES OF ISRAEL(2024.4.16)
(*2)BBC(2024.4.15)
(*3)BBC(2024.4.18)

そもそもイスラエルはなぜイラン大使館を空爆したのか?

4月1日のイラン大使館領事部への空爆では、イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の将官7人など全員が死傷しました。その中にはIRGCの最高司令官の一人であるモハマド・レザ・ザヘディ准将も含まれていました。

ザヘディ准将は、イランの安全保障機構内で大きな影響力と人脈を持つ人物で、直近ではレバノン、ヨルダン、シリア、パレスチナ自治区での作戦を監督するコッズ部隊を指揮しており、対イスラエルおよび対米戦闘の重要な役割を果たしていたことはほぼ間違いないと言われています(*4)。

イスラエルがテロ組織を支援する中心人物の排除を目的として空爆を行ったのは間違いないでしょう。

しかし大使館空爆は、これまでのテロ組織施設を攻撃するのとはレベルが全く違います。私は、大使館空爆は、イスラエルが対イランの軍事行動を強硬路線に切り替えたことを示す、象徴的な事件だったと考えています。

では、イスラエルの目的は何か? 直接的には、今述べたように、テロ組織を指揮するトップの暗殺です。

間接的に挙げられるのは、各国がイスラエルのガザ攻撃を非難し、イスラエルが国際的に孤立しつつある中で、もしイランが報復に暴発すれば、国際世論の風向きがイスラエル支持に変わることを計算したのかもしれません。

最後に最もあり得る目的は、「イラン核施設の破壊のための口実を得ること」ではないかと考えます。

現在、イランは核弾頭をすぐにでも完成させられるレベルにあります。おそらくイスラエルは、今が「イランの核兵器開発を阻止する最後のチャンス」と捉えていたのでないでしょうか。

イラン大使館空爆という強烈な挑発をすることで、イランが報復の罠に引っかかれば、それを口実に、イランの核施設への軍事攻撃に踏み切ることができると、画策した可能性があります。

実際にネタニヤフ氏は、イランの核施設を攻撃するために、この十数年間で何度もアメリカを参戦に引きずり込もうとした前科があります。

(*4)ISW(2024.4.1)

イランのミサイル攻撃

イスラエルがシリアのイラン大使館の領事部を4月1日に空爆したことに端を発した報復が、14日になされました。イランのIRGCは「真の約束作戦(Operation True Promise)」を発動、約170機の無人機、30発の巡航ミサイル、120発の弾道ミサイルでイスラエルを攻撃したのです(*5)。

イラン国営放送は、攻撃に使用された兵器の詳細を報じており、それによると今回使用されたのは、ロシア軍がウクライナ戦争で多数使用している無人機「シャヘド136」、最新の巡航ミサイル「パヴェ」、弾道ミサイル「エマード」(射程1700km)であったようです(*6)。

(*5)Israel Defense Forces
(*6)Sputnic(2024.4.15)

イスラエル側の防御は鉄壁だった

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これに対して、イスラエル国防総省のダニエル・ハガリ少将は、イランが発射した300発ほどのミサイルや無人機の99%は防空網によって迎撃され、弾道ミサイルについてはそのほとんどはイスラエル領空外で迎撃された、と伝えました(*7)(右はイスラエル軍のXから引用)。

すべての無人機と巡航ミサイルは、イスラエル領に到達する前に撃ち落とされ、弾道ミサイルも発射された120発のうちほとんどは迎撃されましたが、一部がイスラエルの防空網を突破して、ゴラン高原とイスラエル南部のアラド地域、またネバティム空軍基地とラモン空軍基地に着弾しました(*8)(下の地図はThe Washington Postより)。

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今回の防空作戦で特筆すべきは、イスラエルに同盟国の多大な防空支援があったことです。

イスラエルと米・英・仏・ヨルダン軍は、無人機や巡航ミサイルを迎撃するために数百機の戦闘機を使用しました(*9)。特にこれまでイスラエルのガザ侵攻を激しく批判していたヨルダンが、イスラエルのために戦闘機を発進させたことは劇的でした。しかもヨルダンがイスラエルに軍を送るのは初めてのことでした。

またイスラエルも多層的な防空網を敷いており、特にアローミサイル(2および3)は、弾道ミサイルの迎撃に大きな役割を果たしました(下図はThe Washington Postより)。

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以下の写真はアローミサイル3によって宇宙空間で撃墜されたイランの弾道ミサイルですが、まるで大きな「花火」のように、あたりが明るく照らし出されています(*10)。

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イランとイスラエルは1000kmを超える距離があり、日本が晒される弾道ミサイルの脅威も同じような距離間にありますので、写真と似た光景に遭遇する可能性があります。

(*7)THE TIMES OF ISRAEL(2024.4.14)
(*8)The Washington Post(2024.4.14)
(*9)THE TIMES OF ISRAEL(2024.4.14)
(*10)THE TIMES OF ISRAEL(2024.4.13)

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。