中国当局が19日付で、商船三井が所有する大型の鉄鉱石運搬船一隻を差し押さえたと発表した。

今回の"事件"は、中国による戦後賠償訴訟が発端となった。日中戦争勃発前年、中国の船会社が日本の海運会社に船舶を貸し出したが、賃貸料を払わず、最後には沈没させたとして、賠償を求めていたものだ。

中国の裁判所は、2007年、原告の訴えを認め、日本の海運会社の流れをくむ商船三井に対して賠償金約1億9千万元(約29億円)を支払う判決を出した。当然、商船三井はこれを不服としたが、中国の最高裁が2010年12月に申し立てを却下し、判決が確定していた。

戦時中の賠償請求は、「日中平和友好条約」で中国側が放棄していることもあり、商船三井は賠償の支払いに応じてこなかった。そのため、商船三井の船が差し押さえられたという。

船の建造費用は今のところ明らかにされていないが、ブラジルが所有する積載量40万トンの鉄鉱石運搬船は、2000億円程度の建造費がかかったという。差し押さえられた商船三井の船の積載量は22万6千トンだが、今後の海運業で生じる利益を考えれば、損害は計り知れない。中国側は、「義務を履行しない場合、差し押さえた船舶を処分する」としている。

このところ、戦時中に日本に強制連行されたとして、中国の元労働者と遺族が日本企業に損害賠償を求める訴訟が相次いでいるが、こうした訴訟で日本企業が敗訴した場合、中国国内にある日本企業の資産が差し押さえられるケースが増えると思われる。

中国商務省がこのほど発表した統計では、日本から中国への1~3月の直接投資額は12.1億ドル(約1230億円)となり、前年同期比で47%もの大幅減だった。

直接投資とは、企業が海外で子会社や工場などを作るために使ったお金のことを指す。大幅減の理由としては、年に1~2割とも言われる労働者の賃金の上昇や、円安、日中の政治的対立などが挙げられる。17日付日経新聞(電子版)によると、訪中した河野洋平元衆院議長と会談した高虎城商務相が「中国政府は両国の企業間の交流と発展を積極的に支持する」と述べるなど、中国側は日本企業の動向を懸念し始めているというが、今回の"事件"で、日本企業はますます対中投資に慎重になるのは間違いない。中国の姿勢が、日本企業の投資を自ら遠ざけているのが実情だろう。

中国では毎日のように抗日ドラマが流され、反日教育も続けられている。2012年秋、中国各地で多発した反日デモで日本企業を焼き討ちした犯人の多くは、「愛国無罪」とばかりに、ほとんど捜査もされず、中国には法治国家として疑問符がついた。

最近では、訪中したヘーゲル米国防長官に、尖閣をめぐって対日戦争までほのめかした中国軍幹部もいた。実際にそのような事態になれば、中国に進出している日本企業は人質にされかねず、投資どころの騒ぎではない。

対中投資は契約から実現まで1年ほどかかる。そのため、今回の大幅減は、およそ1年前の企業の決定を反映したものとみられている。

実際、みずほ総合研究所が2013年2月に日本企業約1300社に対する意識調査を行ったところ、「今後、最も力を入れていく予定の地域」についての質問で、ASEANの44.7%に対して、中国は36.7%と、日本企業の東南アジアへのシフト傾向が強まっていることが分かる。同調査の報告書は結論部分で、「厳しさを増す中国の投資環境の変化を受けて、日本企業は中国からASEANへのシフトに舵を切り始めている」としている。

朝日新聞(18日付朝刊)は、「(昨年から)新たに進出しようと相談に来る企業がパタリとなくなった」という、上海のある日系金融機関の関係者の話を紹介している。尖閣問題をめぐる習近平・中国国家主席の軍国主義的な発言を見ても、この流れは今後も続くと考えられる。さらに今回のような事件があれば、なおさらだ。

中国のカントリーリスクを考えれば、日本企業はフィリピンやタイ、ベトナムなど東南アジアにシフトするのは当然の判断と言える。

経済の先行きについての不透明感に怯える中国は、高付加価値の技術やノウハウを得たくて日本企業に来て欲しいのだろう。しかし、そのためには、中国共産党が反日政策で日本との対立をあおるのを止めるとともに、法治国家を目指さなければいけない。(居)

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