劉暁波のセレモニーが行われたワシントン国立大聖堂

《本記事のポイント》

  • 劉氏の追悼式典は悲壮感ではなく、希望を感じた
  • 参列者のアメリカ議員は、中国の人権弾圧を批判
  • 国際社会は未だに中国に弱腰。劉氏の民主化への思いを伝えるべき

このほど閉幕した中国共産党第19回大会。中国の習近平体制の権力が強化されることが国内外にアピールされる中、アメリカでは、それに異を唱えるかのような式典が行われた。

10月19日、ワシントン国立大聖堂で、中国の民主活動家であり、ノーベル平和賞を受賞した劉暁波氏の追悼式典が行われたのだ。

劉氏は、中国共産党の一党独裁への批判などで有罪とされ、獄中でノーベル平和賞を受賞し、7月13日に亡くなった。劉氏を追悼する動きが広がることを恐れた中国政府は、メディアやインターネットの情報統制を強化。ネット上で、劉氏の名前や写真はすぐに削除し、劉氏や妻の劉霞さんのイニシャル、追悼を意味する「ろうそく」すら検索できないようにした。

北京では、共産党大会の開幕を前に警備体制が強化され、抗議活動を行う可能性のある住民や人権活動家らは、党大会期間中、当局によって拘束、自宅軟禁、警察官同行による「強制休暇」で地方滞在を強いられた。

香港の中国人権民主化運動ニュースセンターは10月16日、劉氏の妻である劉霞さんも、当局に「旅行」に連れていかれたという親類の発言を報じている。

式典は悲壮感ではなく、希望を感じた

筆者は、中国政府が神経をとがらせる劉氏の追悼式典に参加した。

ワシントン国立大聖堂は、初代大統領ジョージ・ワシントンの「宗派を超えた大聖堂」という構想に基づいて建造された世界最大規模の聖堂であり、かつては、レーガン元大統領やアイゼンハワー元大統領の葬儀も行われた由緒ある場所だ。

巨大な大礼拝堂での式典は、パイプオルガンの壮麗な響きによって始まり、大司教の挨拶と祈り、司教らによる厳かな儀式が執り行われた。劉氏と共に「08憲章」を起草した法律家、李曉蓉氏(Li Xiaorong)、ワシントンの人権団体「公民力量」創始者、楊健利氏(Yang Jianli)による、劉氏の詩の朗読もあった。

中国問題に関する連邦議会・行政府委員会主席のクリストファー・スミス下院議員(共和党)、2014年にワシントンの中国大使館前の通りを「劉暁波プラザ」と名付けるべきだと提案した議員の一人、ナンシー・ペロシ下院院内総務(民主党)は、式典にビデオメッセージを送り、劉氏の詩などを朗読した。

ノーベル平和賞選考委員会の委員長、ベリット・ライシュ=アンデシェン氏が檀上に上がると、劉氏の人権活動の功績を称え、同委員会が、ついに彼に会うことができずに終わった悲しみを述べ、ナチス・ドイツの強制収容所にいながらノーベル平和賞を受賞したカール・フォン・オシエツキー氏の例になぞらえた。

「私には敵はいない」という劉氏の代表的メッセージの抜粋が、アンデシェン氏と、拷問に関する国連特別報告者、ジュアン・メンデス氏の2人によってそれぞれ朗読された。さらにダライラマ14世からの追悼式へのメッセージ、劉氏の民主化活動への賛辞のビデオも上映された。

その後、司教らによる祈り、神聖なパイプオルガンの演奏などが行われ、式典は幕を閉じた。式典は厳粛に執り行われたが、意外にも、暗さや悲壮感は感じられず、劉氏が後世に託した「自由への革命はこれから始まるのだ」という希望を共有する場となった。

中国の人権弾圧への批判を強めるアメリカ議員

筆者にコメントを寄せるテッド・クルーズ上院議員

参列者には、5月に「劉暁波プラザ」に改称する法案を提出した、テッド・クルーズ上院議員の姿もあった。

式典終了後、筆者は、クルーズ議員と短く会話することができた。その中でクルーズ議員は、一般市民を投獄して拷問を行う中国政府の人権弾圧を嘆き、「劉暁波プラザ」を改称することは、中国と世界へのメッセージであり、劉氏の精神がエコーのように広がれば、我々は人権問題を克服できるのだと力説した。

クルーズ議員はこれまでも、マルコ・ルビオ上院議員とともに、同様の法案を提出しており、2016年に上院・下院で可決されたものの、当時のオバマ大統領が改称に慎重な姿勢をとり、拒否権を発動する構えまで見せたことで、実現することができないでいる。

人権弾圧の強化と、国際社会の中国に対する弱腰

式典には、海外からも数百人が参集したが、参加者の中心は、アメリカ国籍を持つ中国系移民と人権活動に熱心なアメリカ人だった。

ある中国の少数民族に属する学生は、「アメリカで劉氏の追悼式典に参加したことを中国当局に察知されると、本国に戻った時に拘束される恐れがあるので、怖くて参加できない」と筆者に語ってくれた。

中国の習近平主席が、人権弁護士や活動家への締め付けを強化し、言論統制や宗教弾圧も熾烈さを増していることは明らかであり、アメリカの中国研究者も、その状況に異論をはさむ人はいない。

2016年に採択された「インターネット安全法」などに代表されるインターネットの言論統制では、たとえ私的なグループチャットであっても、政府批判を行ったユーザーの責任を問うことができ、小規模な草の根グループを組織しただけで拘束された例もある。

諸外国の政府は、人権抑圧に表向きは批判を強めているが、具体的な動きとなると、反応は鈍いと言わざるを得ない。7月上旬にドイツで開かれたG20 サミットでも、各国首脳から劉氏の話題が出ることはなく、国際社会がいかに中国に対して弱腰であるかを物語っている。

独裁国家の弾圧に苦しむ13億人の自由が取り戻せるように、そして、唯物主義的・全体主義国家から民主主義国の自由を守るためにも、劉氏が命をかけて訴え続けた民主化への熱きメッセージを伝えていかなくてはならない。

(西幡哲)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『中国民主化運動の旗手 劉暁波の霊言』 大川隆法著

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