《本記事のポイント》

  • ドイツで左派政党の支持率が上がっている
  • 現政権の「お人よし政策」に嫌気が差している!?
  • ドイツにも「自国・ファースト」の考え方が必要

今年9月に連邦議会選挙を控えるドイツの最新の世論調査によると、左派のドイツ社会民主党(SPD)の首相候補であるシュルツ欧州議会前議長の支持率(49%)が、保守派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU・同盟)のメルケル首相(38%)を上回った。

1月末時点の同調査では、メルケル氏44%、シュルツ氏40%だった。また政党別に見れば、SPDの支持率は33%で、同盟の32%を上回った。21日付朝日新聞などが報じた。

シュルツ氏の訴える政策はかなり左翼的だ。ドイツでは、派遣やパートタイムで働く労働者が増えており、所得格差が拡大しつつある。シュルツ氏は、労働者の賃上げや社会保障の充実、労働者を解雇から守る制度の導入などを訴えている。また、財政支出の拡大やインフラ投資なども訴える。

これらの政策はいかにもSPDらしいといえるが、メルケル氏の前任で、同じくSPDのトップだったゲアハルト・シュレーダー元首相(任期は1999年~2005年)が進めた社会保障の抜本的な改革を覆すものでもある。

高齢化が進む中、シュレーダー元首相は無駄に使われていた失業保険や年金などの社会保障費用を見直した。例えば、働かない失業者にお金をバラまくのではなく、「失業保険は再就労するためのお金」と定義し、怠けている人は保険料をもらえないという制度にした。

また、企業の国際競争力を高めるために、企業が社員を解雇できないという法律を修正。こうした新自由主義的な政策を打ち出したシュレーダー元首相だったが、労働組合から批判されて支持率を落とし、2005年に政権が変わり、CDUのメルケル首相が誕生した。

左翼政党や極右政党が人気の理由

今回、シュルツ氏がメルケル氏よりも人気を集めた背景には、国の社会保障やインフラ投資もままならないのに、難民の受け入れや債務危機の国を救済しようとするメルケル氏の「お人よし政策」に嫌気がさしているということがあるのではないだろうか。

また、ドイツのEU離脱を最大の目標として掲げる新政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進している理由も、ドイツの国益よりEUのルールにこだわる現政権への不満の表れといえるだろう。

ドイツはこれまで、EUで最大の経済国家として、他の加盟国を支えてきた。しかし、それがドイツ自体の国益やドイツ人の生活を豊かにすることにつながらないならば、国民が現状維持の体制に不満を持つのも当然といえる。

自国の安全と繁栄に責任を取る政治を

アメリカでも同様に、現状維持路線の政治に嫌気がさした国民によって、トランプ氏が選ばれた。トランプ氏は、政策の柱として「アメリカ・ファースト」を主張し、まずはアメリカの安全を確保し、経済を立て直してから、世界の安全と繁栄に責任を持てる大国になるというビジョンを示している。

ドイツも、自国の安全や繁栄に責任を取るという意味で、ある程度の「自国・ファースト」の考え方が必要なのではないか。そしてEU各国が、EUに依存するのではなく、自立した国民国家として、自国を豊かにする責任を果たしていくことを期待したい。

(小林真由美)

【関連記事】

2017年2月5日付本欄 ドイツで大きくなる難民問題 ドイツが目指すべき方向と日本が貢献すべきこととは

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12556

2017年2月2日付本欄 「トランプ砲」がドイツを直撃 日本よりドイツの方が心配なワケ

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12546

2016年12月8日付本欄 ドイツが「難民受け入れ厳格化」に方向転換か EUを富ます考え方とは

http://the-liberty.com/article.php?item_id=12304