「アメリカは不必要な環境規制で数十億ドルを無駄にしている。環境保護とビジネスの自由を大事にする」――。
米オクラホマ州司法長官のスコット・プルイット氏がこのほど、環境保護局(EPA)長官に就任した。同氏は冒頭の発言に加え、二酸化炭素などの排出と地球温暖化の因果関係について、「ある程度影響はしているだろうが、議論の余地がある」と述べるなど、温暖化対策に「懐疑的な人物」として知られている。
環境規制に苦しめられていたエネルギーや自動車などの産業界は、プルイット氏の就任を歓迎。その一方で、EPAの元職員約800人は、上院に書簡を提出し、承認しないよう求めていた。
「パリ協定」離脱の是非に注目
環境規制の見直しを訴える人物が就任したことで、焦点になるのは、全ての国に温暖化対策を義務付けた「パリ協定」を離脱するか否かだ。アメリカはこの協定で、「2025年までに、温室効果ガスを05年比で26~28%削減する」ことを公約にしている。
パリ協定について、トランプ大統領は過去に、「オープンに構えている。とても注意深く見ているところだ」と述べ、離脱を否定しなかった。また、たとえ離脱しなくても、削減目標の未達国に対して、罰則が科されるわけではないため、目標自体を無視する可能性も指摘されている。
いずれにせよ、トランプ政権は、オバマ政権が進めた火力発電の排出規制などを見直すのは間違いない。今後は、二酸化炭素の排出よりも、水の安全や土壌汚染対策などに予算を投じるとしている。その点、トランプ政権は単なる「環境破壊論者」ではない。
日本も規制緩和の影響を受ける
トランプ政権による環境規制の緩和は、エネルギーや自動車産業などに影響を与えると見られ、日本としても対策を練る必要に迫られる。特に自動車メーカーは、環境規制をいかに素早くクリアするかどうかが、市場占有の成否を分けてきた。
日本が現在、アメリカ市場に確固たる地位を築いたきっかけも、1970年に制定された大気浄化法改正法(通称:マスキー法)。米自動車大手3社、いわゆるビッグ3が、規制をクリアできなかった中、ホンダがいち早くクリアしたことで、日本の技術力の高さが世界に知れ渡った。
これを見ても、環境規制の行方は、自動車メーカーにとって死活的に重要な問題であることは明らかだ。
環境規制の変更だけではなく、トランプ政権は、法人税などを減税し、国内の製造業を強くする環境を整えていくつもりだ。ところが、日本では、アメリカとの貿易条件をどうするかという点に議論が集中している印象が強い。税制やエネルギー戦略を含めて、より広い視野で考えるべきではないか。
(山本慧)
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