大学運営の自由を阻害する、新たな規制が生まれようとしている。

山本幸三・地方創生相はこのほど、東京都内に大学が新設・増設されることを抑制し、地方移転を促進する方策などを検討するため、有識者会議を設置することを明らかにした。

人口の東京一極集中に歯止めをかけるためとして、全国知事会などは政府に対し、「大学の立地規制」の導入を要望していた。

政府は、地方から東京圏に出てきた学生が出身地などで就職することを促すため、就業体験(インターンシップ)を行う地方企業を、現在の2倍に当たる約1万3千社に増やす目標を掲げている。有識者会議は2月6日に初会合を開き、5月ごろに中間報告をまとめる。

「自由を縛る」と大学側は反発

しかし、私立も含む大学・学部の開設など、大学運営の自由を法律で縛る新たな規制に、東京都側は抵抗している。

東京都の小池百合子知事は記者会見で「大学の世界ランキングも考えると、自由に国際競争力をつける大学の努力があってこそで(新増設抑制は)大学の経営そのものに大きな影響を及ぼす」とけん制した(2016年12月28日付日経新聞)。

大学側からも異論が出ることが予想される。日本私立大学連盟の会長を務める早稲田大学の鎌田薫総長は「大学・学部の新増設を規制するのは学問の発展や国際競争力の育成を妨げかねないため、客観的なデータをもとに慎重に議論すべきだ」している(同上)。

自由競争による創意工夫を

「大学の立地規制」は、過去に迷走した事例がある。

経済成長に伴って、東京への人口の集中が進んだ1959年、政府は工場や大学の都心への集中を抑制するために、「工業等制限法」を制定し、工場や大学の立地を規制した。これを受け、定員を増やそうとした大学は次々と郊外に移転した。しかし一転、政府は自由競争を促すため、2002年に「工業等制限法」を撤廃。首都圏の大学はキャンパスを都心に戻す動きが広がった。まさに、政府が定める法律に大学側が振り回された格好だ。

今回、「地方創生」を旗印に大学の地方移転を進めても、近い将来、また「国際競争力の向上」などを理由に、方針が変わる可能性もある。

内閣府地方創生推進事務局のホームページによると、東京都内への大学・学部の新設を抑制する策を打ち出した「まち・ひと・しごと創生本部」は、「各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生できるよう」、2016年12月に閣議決定されたとしている。

大学や学部が設置されるのは、その場所や教育内容へのニーズがあるからだ。政府としては、都市部に大学や学部を新設できないよう「自由を縛る」方向での対症療法ではなく、長期的に地域経済の成長力を高めていくための体質強化につながる経済政策が必要となる。

大学教育は、都市部よりもゆとりのある環境を持つ地方の強みが生かせる分野でもある。地方大学が各地域の特徴を生かして、東京の大学にはない強みを創り出し、人材などの資源を誘致する取り組みが必要だ。政府には、そうした大学間の自由競争を阻害しない方向での支援策を求めたい。

(小林真由美)

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