昨年、安倍晋三首相の指示で始まった「携帯電話料金の値下げ」が具体化している。

春商戦に向け、ソフトバンクとKDDI(au)が12日、25歳以下の若者を対象に、5~6ギガバイトのデータ容量を一定期間増やす「学割サービス」を発表した。すでにソフトバンクは、利用量の少ない「ライトユーザー」向けにも、1ギガで月額4900円(税抜)を発表しており、他社も近く発表する見通し。

学割プランの発表をめぐっては、業界特有の問題が浮き彫りになった。ソフトバンクが当初発表したプランは、データ容量の増量は3ギガ。しかしその後、KDDIが5ギガのプランを発表すると、ソフトバンクは同日中に6ギガに修正した。

携帯業界の寡占で消費者は不利益

こうした追随劇は、少数の企業が独占する「寡占市場」で見られる現象だ。寡占を解消しなければ、消費者が求める「料金の値下げ」は期待できそうにない。ソフトバンクのライトユーザー向けのプランも、KDDIとドコモが今後、類似したプランを打ち出すだろう。

安倍首相の指示で開かれた有識者による報告書にも、「携帯電話料金全体の値下げという話ではない。ユーザー間の行きすぎた不公平性の是正がポイント」と明記されており、"官製値下げ"の選択肢は外された。携帯大手は、さまざまなプランを発表することで、「値下げ感」をアピールするだろうが、その恩恵を受ける消費者は一部にとどまると見られる。

電波の自由化で競争を

こうした動きは、現行料金の引き下げを目論んだ安倍首相の筋書きとは異なるものだ。だが、政府による圧力は自由市場を否定しかねない。そのようなことをせずとも、消費者が多様な選択肢から選べる環境を整えることができる。

例えば、国民の共有財産である「電波」の割り当ては、総務省が管轄している。そのため、割り当てを受けた企業しか、新規参入が認められず、自由な競争が生まれづらくなっている。総務省は、電波を割り当てた企業を天下り先の受け皿とし、「癒着」が起きているとも指摘されている。

ソフトバンクの孫正義社長も、自身のツイッター上で「怒りの会見「国民の財産である周波数を、総務省内の数名の人間が主観で、サマリーシート(要約資料)だけ見て決定する、そのプロセス自体がおかしいのではないか」(原文ママ)と苦言を呈したことがある。

安倍首相の"官製値下げ"は、規制緩和を旗頭にする「成長戦略」が功を奏さない「焦り」から生まれていると言わざるを得ない。政府がすべきことは、本来、参入しづらい携帯業界の規制緩和を進めることであって、口出しではない。

(山本慧)

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