中東のシリアでは、現在、「アサド政権」「一般市民を含む反アサド武装勢力」、そして「イスラム国(IS)」などが入り乱れて戦闘を繰り広げ、多くの犠牲者が出続けている。

このシリア問題をめぐって、立場が異なるアメリカとロシアに関して、国際政治学者ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官がこのほど、米ナショナル・インタレスト紙上で興味深い考えを示した。

シリアを舞台にアメリカとロシアが衝突する危険性

シリアにおいて、アメリカは反アサド武装勢力を支援しつつ、イスラム国への空爆を続けるとともに、市民を大量虐殺しているアサド政権打倒の必要性にも言及している。

一方、ロシアはこのほど、長年、協力関係にあるアサド政権を支援し、イスラム国や反アサド武装勢力への空爆を始めた。この空爆は、反アサド勢力を支援するアメリカとの対立を招く。

ロシア側は空爆を始める9月30日、ロシア軍の中将がイラクのアメリカ大使館を訪れ、「我々の空爆は一時間後に始まる。邪魔をしないでほしい」と警告したことを、英BBCが報じた。米メディアは、シリア国内で米露両軍が衝突する危険性に警鐘を鳴らしている。

ウクライナを舞台に対立を深めたアメリカとロシア

米露関係がここ数年悪化している原因の1つに、ウクライナにおける対立がある。

2014年2月、当時、親ロシアだったウクライナのヤヌコビッチ政権が、親欧米派の人々の手によって倒された。その後、欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への加入を提唱する、親欧米政権が誕生したことに対して、ウクライナ南東部に住む親ロシア派の住民が反発。ロシアはこれらの住民を支援するために軍事介入を行った。

これを見たアメリカ側は「プーチン氏は、ウクライナ内戦を口実に『旧ソ連』を再建しようとしている」と分析した。

「ロシアにとって、ウクライナは重要な緩衝地帯」

しかし、キッシンジャー氏は米ナショナル・インタレスト紙で、こうした見方に対して異を唱えている。

「プーチン氏は『ロシアは西洋文明の一部である』ことを証明するために600億ユーロを使ってソチ・オリンピックを成功させた。そのわずか一週間後に、プーチン氏が率先してウクライナ紛争を作り出したと考えるのは不自然すぎる」「プーチン氏はウクライナ情勢に引きずられて反応したに過ぎない」

また、こう指摘する。「問題は、欧米側がウクライナをEUやNATOに加入させようとしたことだ。ナポレオンやヒトラーに侵略されたロシアにとって、ウクライナは重要な緩衝地帯である。ウクライナがNATOに加入し、ロシアの国境までNATOの影響力が及ぶことは、ロシアにとって許容できないことなのだ」。

そしてキッシンジャー氏は、「米露は協力し合うことができるはずだ」という。たとえば、ウクライナを軍事的に「どっち付かず」にすることで、「ロシア軍のウクライナ撤退」と「ロシアの安全保障」を両立させ、なおかつ、ウクライナの主権を尊重することができるというのだ。

また、米露両国とも、イスラム国を脅威と見なしているため、共闘は可能であり、いずれはアサドの退陣を視野に入れた交渉も可能だという。

確かに、アメリカは、いまだに米ソ冷戦時のロシア観を引きずっており、ロシアが取る自衛行動すら脅威と見なす傾向がある。しかし、ウクライナにおけるロシアの行動を「自衛」と見なすことで、両国が協力し合える可能性が出てくる。

米露が、新たな考え方で歩み寄ることは、世界の安定のために必要なことだろう。(中)

【関連記事】

2015年9月29日付本欄 米露首脳が国連で演説 シリア巡って激しく対立

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10250

2015年9月19日付本欄 ロシアがシリア介入を強化 やはりアサド政権の退陣は必要

http://the-liberty.com/article.php?item_id=10182

2015年8月号記事 アメリカが対ロシア政策で軟化の兆し - ロシアを取り込み、中国包囲網をつくれ - The Liberty Opinion(Webバージョン)

http://the-liberty.com/article.php?item_id=9818