米オバマ大統領と露プーチン大統領がこのほど、国連総会で演説した後、首脳会談を開いたことを、主要各紙が報じている。
それぞれの演説で、両者はシリアの現状と未来に関して対立する世界観を提示した。
割れるシリア政策
ロシアはシリア内部に軍事基地を設け、アサド政権を支援してイスラム国に対抗する姿勢を見せている。その一環として、ロシア・イラン・イラク・シリアの4カ国間で情報共有をすることで合意。シリア情勢を巡って、ロシアが主導権を握りつつあることを示した。
国連総会の演説でプーチン氏は、イスラム国をはじめとするテロ組織に対抗するために、「反テロ連合をつくるべきだ」と主張した。これに対してアメリカ側は、シリア市民を虐殺しているアサド政権を打倒する必要性を訴え、ロシアの真意が「アサド政権の存続」ではないかと疑っている。
「アサド政権を支援する」とするロシアと、「アサド政権を打倒すべし」というアメリカで、明らかに政策が割れているのだ。
対立する正義
両国の対立の根底にはさらに根深い問題がある。それぞれの世界観が、シリア政策に明確にあらわれているのだ。
国連総会の演説で、プーチン氏は、「ソ連は共産主義革命を輸出しようとして失敗した。しかし、一部の国々はその間違いから学ぶことなく、革命(この場合は民主主義革命)の輸出を続けている」と、アメリカが武力介入を通してイラクの政権などを転覆してきたことを批判した。そして、「主権とは、それぞれの国が自分たちの未来を選び取ることができる『自由』のことである」と主張。シリアという主権国家を支援してイスラム国に対抗するという政策を明確に打ち出している。
これに対し、オバマ氏は、「真の民主主義国家や人権への配慮が成されている国では、シリアで見られるような混乱は起きない」とし、アサド政権が市民を虐殺していることを再度指摘した。アメリカの視点からすると、「非民主的な国では、そもそも国民が自分たちの未来を選ぶ権利がない」ということだろう。しかし、シリアに民主的で安定した政権を打ち立てるための戦略を提示できてはいない。
米露いずれも、陸軍をシリアに派遣する可能性を否定している。ロシアはアサド政権の存続によって地域の安定を保とうとしているのかもしれないが、アメリカの戦略は明確ではない。そのため、アメリカのやり方では、アサド政権やイスラム国を打倒した後、誰がシリアの治安を守るのかが分からない状況だ。
プーチン氏は自らの正義を信じて行動しており、それが明確なシリア政策としてあらわれている。しかし、オバマ氏は、「シリア市民は救いたいけど、陸軍は派遣したくない」「アサド政権は打倒したいが、イスラム国にシリアを取られたくない」など、「何が正義であるか」迷っている面が見られる。
両者が口論している間も、シリア国内ではアサド政権やイスラム国による虐殺が続いている。すでに数十万人の死者を出し、それに数十倍する難民を生み出しているシリア内戦を終結させるためにも、国際正義の基準を明確に打ち出す必要がある。(中)
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2015年5月6日付本欄 シリア・アサド政権が危機に イスラム教圏に必要なこと
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2015年9月号記事 日本はロシアといかに付き合うべきか