エジプトの裁判所がこのほど、ムハンマド・モルシ元大統領に死刑判決を言い渡したことを、主要各紙が報じている。

今回の死刑判決は、2011年の革命のとき、モルシ氏が刑務所からの脱獄や、警察への暴行に関わっていたことが理由とされている。

国連や国際社会からは、今回の死刑判決に対して非難が集中している。

2011年に、30年以上もエジプトを支配してきたホスニー・ムバーラク氏の独裁政権が革命で倒れ、エジプト初の民主的な選挙が行われた。当選したのはイスラム主義組織・ムスリム同胞団を後ろ盾に持つモルシ氏だった。しかし、その独裁的な振る舞いが国民の不興を買い、2012年12月にはモルシ派と反モルシ派との間で大規模な衝突が起きる。これに終止符を打ったのが、2013年7月の軍事クーデターだ。

2014年5月には、当時軍のトップだったアブドルファッターフ・アッ=シーシー氏が大統領となった。

エジプトはいま、国の民主化を求めるリベラル・世俗派と、イスラム法の適用を求めるムスリム同胞団などのイスラム主義派の間で割れている。さらに、軍・裁判所・警察など、旧ムバラク政権時代から存在する組織は、自らの権力を維持するために独自の行動を取る。現シーシー政権もこれに与しており、リベラル派・イスラム主義派の両方から非難を受けている。

今回の死刑判決は、旧ムバラク派による、「ムスリム同胞団への牽制・弾圧」という政治的な意味を含むものだ。

こういったエジプトの情勢は、いま中東全域で見られる混乱の縮図と言える。西洋的な近代化を求める者と、旧来の伝統を守ろうとする者が対立し、そこに宗教・民族・既存権力などが複雑に絡まっている。

共通している問題は、国境、宗派、民族、そして信条の違いを基に秩序が崩壊していることだ。

中東の混乱を収束させるには、こういった違いを許せる「寛容」の精神がどうしても必要である。中東の人々が千年に渡って共有してきたイスラム教という宗教・アイデンティティーを改革すべき時が来ている。(中)

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