「自治体の憲法」と言われる自治基本条例。東京都中野区で、その条例から首長の権力を縛る「多選自粛条例」の削除が可決された。

この条例は、同じ人が連続して当選する「多選」を自粛するよう定めており、全国でいくつかの市町村が制定している。もともとの制定の背景には、「惰性に流れ、政策に偏りやゆがみができる」という理由があった。

しかし今回、中野区では、9年前に条例を制定した区長自らが、4選目を目指す6月の区長選挙を目前に、この条例を削除した。そのため批判の声があがっている。

確かに、長期間、首長の地位につくことで自治体との癒着が懸念される。しかし住民のために良い政治を行っていれば、反対の声は上がらないだろう。元東京都知事の石原慎太郎氏は、1999年~2011年の4期に渡って知事を務めたが、多選の議論は起こらなかった。

議論すべきは、多選が良いか悪いかではない。問題は、現行の選挙制度が、現職が有利になるようにできていることだ。首長でも議員でも、現職が有利な仕組みになっていることが、多選につながり、政治が惰性に流れ、本当に志のある人材が当選できない状況を生んでいるのではないか。

公職選挙法では、選挙がはじまる告示日以前に、立候補予定者は自分の名前や後援団体の名称が記載された文書の掲示を原則禁止している。また、街頭演説などで個人名が明記された旗を掲げることも禁止だ。様々な禁止事項があり、名前や認知度がある現職議員が非常に有利な制度になっている。他にも、選挙を何回も経験したことがある政治家や政治団体のような、プロ化した集団でないと処理できない事項が多々ある。

もともと、選挙制度は、「票の買収」を禁止し、新しい候補者も公平に選挙活動ができるようにするために制定された。しかし現実には、細々した決まりがすでに時代遅れになっており、新しく立候補する人にとって非常に不利な仕組みになっている。

選挙の投票率が低下しているのも、世襲や多選している議員に関係のある人達しか投票に行っていない現状の現れではないか。さらに、マスコミによる選挙予測報道が、「投票に行くまでもない」という心理を働かせていることも否めない。

限られた人達しか参画できない選挙制度が続く限り、選挙の投票率はさらに低くなるだろう。新しい人が参画できる、チャンスの平等を軸とした法改正が必要だ。

(HS政経塾 壹岐愛子)

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