《ニュース》

アメリカで人工中絶をめぐって激しい議論が交わされる中、中絶擁護派(pro-choice)の団体が、教会や妊娠相談センターなどの中絶反対派(pro-life)の拠点に火炎瓶を投げ込むなど、過激な暴力に訴えていることが問題視されています。

《詳細》

中絶をめぐる判断は、キリスト教への信仰を基盤とするアメリカにおいて、長らく国論を二分してきました。

この度の議論が再燃したきっかけは5月、人工中絶の権利を認める1973年の判決「ロー対ウェイド裁判」を連邦最高裁判所が覆す見通しだと示す内部文書を、米政治専門誌・ポリティコが入手・報道したことです。

これを受け首都ワシントンをはじめ、全米各地で中絶擁護派が大規模なデモを開催。メディアを含め、擁護派・反対派の両陣営の間で議論が続いています。

そうした中、妊娠中絶を擁護する団体が、キリスト教会や妊娠相談センターをはじめとする中絶反対派(pro-life)の拠点に火炎瓶を投げ込むなど、暴動事件が起きています。

報道によると、最高裁の文書がリークされて以降の45日間で、少なくとも48件もの被害が報告されているとのことです。

象徴的なものを挙げると、今月7日、意図せず妊娠した女性を支援するキリスト教系の非営利組織「CompassCare(コンパスケア)」のニューヨーク州バッファローにある事務所には火炎瓶が投げ込まれ、事務所内および窓ガラスが大破しました。

5月には、ウィスコンシン州にある妊娠中絶に反対する政治団体「ウィスコンシン・ファミリー・アクション」の事務所も放火被害を受け、壁には「If abortions aren't safe, then you aren't either(もし中絶を安全に行えないなら、お前たちも安全ではない)」という脅迫的なメッセージが残されました。

一連の犯罪行為が問題視される一方で、中絶擁護の団体「Jane's Revenge(ジェーンズ・リベンジ)」はいくつかの攻撃に関して犯行を認め、複数回にわたって声明を発表。次のように主張しています。

「これは忠告にすぎない。我々はあらゆる中絶反対の機関、フェイクの病院、暴力的な中絶反対の団体が30日以内に全て解散されることを要求する」「ウィスコンシンは第一の引火点だが、我々はアメリカ全土に存在し、これ以上、警告にとどまることはない」

激化する中絶擁護派の暴動が争点になる中、中絶擁護の立場をとるナンシー・ペロシ下院議長は、この件に関する報道陣の質問に対し、「女性には選択の権利がある」「私はカソリックの信仰を強く持っているが(I'm a very Catholic person)、全ての女性には自分自身で選択する権利があると信じている」と回答。一連の暴力に対する批判を避けました。

ペロシ氏による発言を受け、FOXニュースの人気司会者であるタッカー・カールソン氏は、本誌でも取材してきた保守言論人のビクター・デイビス・ハンソン教授を招待した番組で、「下院議長が教会への攻撃を批判できないというのは恐ろしいことだ」と、見解を尋ねました。

これについてハンソン氏は、リベラル陣営の主張として、「政府は我々(中絶擁護派など、民主党とイデオロギーを共にするリベラル陣営)の味方であり、あなた方(中絶反対など保守派)の味方ではなく、選択的に起訴や逮捕を行うということです」と述べ、イデオロギーに応じて判断を変える民主党のダブルスタンダードぶりを批判しました。

つまり、民主党と見解を同じくする勢力であれば、たとえ過激な暴力行為に出たとしても、事実上、容認されるということが鮮明になりました。

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