タイが自国内で計画している高速鉄道で、日本の新幹線方式を採用する見通しになったことをこのほど、日本経済新聞が報じた。今週、両国の運輸担当の大臣が東京で会談し、合意文書を交わすという。

タイの首都バンコクと北部の都市、チェンマイを結ぶ、総延長約680kmの路線が対象。この路線はインラック前政権時代にも、中国の受注が有力視される中で計画されていた。しかしこの計画は、2014年の5月の国内のクーデターで計画が一度、破棄されていた。

日本と中国の受注競争を経て

また、現・プラユット政権と中国は昨年12月19日、中国の李克強首相の訪タイに合わせ、ラオス国境の東北部ノンカイとラヨンを結ぶ734キロ、バンコクから中部サラブリまでの133キロの2路線を共同開発することに調印した。さらに、プラユット首相は調印後の同月22~23日、中国を訪問し、習近平国家主席と会談したほか、北京―天津間の高速鉄道に試乗して、中国の鉄道関連技術を評価したと報じられていた。(2月10日付 産経ニュース)

しかしその後、プラユット首相は今年2月の訪日時に東京―新大阪間で新幹線を利用し、後日、「日本の新幹線技術を導入して高速鉄道網を構築することによって、首都バンコクとパタヤやホアヒンなど南部の観光地を結びたい」と語っており、日本の新幹線導入に改めて意欲を示していた。3月の来日時にも、東京―仙台間で再び新幹線に乗車している。

クーデター後、一度白紙になった新幹線の輸出を中国との競争で勝ち取った、日本の粘りの交渉は評価されるべきだろう。

アジアで広がる「新幹線」への信頼

この他にもアジアでは、インドでもムンバイとグジャラート州を結ぶ区間で日本の新幹線方式の採用が最有力となっている。日本の新幹線技術は世界で高く評価されているのだ。

特筆すべきは、その速さ、運行時刻の正確さ、安全性だ。たとえば、東海道新幹線では、1964年の開業以来51年間、「乗車中の旅客の死亡事故ゼロ」を続けている。

新幹線の輸出は、日本と輸出相手国の双方に多くの雇用や富を創出する。特に途上国などにとって、このようなインフラ輸出は、さまざまなモノやヒトの移動を加速させ、経済発展の大きな起爆剤となり得る。

しかし、インフラ輸出は単に経済を発展させるためだけのものではない。このような大規模なインフラ輸出は、当然民間だけの問題に収まらず、政府間でのやり取りが絡んだ外交的側面も持つ。

現在中国は、その建設費の安さを武器に、自国の高速鉄道システムを多くの国に売り込んでいる。また、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立で、中国主導のインフラ投資を加速させ、中国の影響力を増大させようとする狙いが透けて見える。しかし、中国の高速鉄道は2011年に大事故を起こし、その後の調査も満足になされていないなど、その安全管理は疑問視されている。

日本は、「世界一安全」と言われる新幹線からも分かるように、その技術力の輸出によって、タイやインドなどの途上国の発展に大きく寄与できる。また、インフラ輸出を外交カードとして有効に使うことで、軍事的拡大やAIIBを用いて影響力の拡大を狙う中国を牽制し、インフラ輸出による「中国包囲網」づくりを進めることも重要だ。(瑛)

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