2015年6月号記事

編集長コラム Monthly Column

AIIBをめぐる中国の野望を挫くには

――次の基軸通貨は人民元? それとも円?

創造の法

未来への国家戦略

もしケインズなら日本経済をどうするか

参考書籍 大川隆法著『創造の法』、『未来への国家戦略』、『もしケインズなら日本経済をどうするか』ほか

中国が主導する、新興国・途上国のためのアジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐっては、アメリカの「敗北」であることが明らかになった

戦後、世界の金融秩序はアメリカが担ってきた。アメリカ主導の国際通貨基金(IMF)が世界の銀行システムを支え、世界銀行が援助や融資によって途上国の長期的な発展を促す体制だ。

アメリカ主導の金融秩序にAIIBが挑戦状をたたき付けた格好だ。中国が40~50%を出資し、そこに50カ国以上が参加。日本とアメリカは、AIIBによる融資の基準やルールが明確ではないとして、参加を見送った。アジアの途上国だけでなく、先進7カ国のうちヨーロッパの英独仏伊が加わったことは、アメリカにとって大きな誤算であり、予想外のショックだった。

100年かけて「アメリカ越え」を目指す中国

もちろん、中国が自国の経済低迷を解決するための一つの手段としてAIIBを使おうとしているのも確かだ。中国も経済的に苦境にあって、「勝利」を得たわけでなはい。

中国政府には正確な統計が期待できないが、鉄道の貨物輸送量やエネルギー消費量などは、経済実態を反映したものと考えられる。鉄道貨物輸送量は2014年には前年比で4%近く減少し、石炭販売量も同年に1.5%マイナスになったという。こうした数字からすれば、中国経済がマイナス成長に陥っている可能性もある。

そのため鉄鋼やセメント、建材などがあり余っているほか、失業者も増えている。資材と人を海外へ"輸出"し、景気対策の目玉としてAIIBを利用しようとしているというわけだ。

ただ、この1~2年の局面で見れば景気対策ということになるが、AIIBはもっと長期的な視点でとらえるべきだろう。

アメリカの中国専門家の間で最近、『The Hundred Year Marathon(100年マラソン)』という書籍が反響を呼んでいる。アメリカの著名なシンクタンク、ハドソン研究所のマイケル・ピルズベリー氏が書いたもので、「中国は、戦後アメリカが築いた国際政治システムを中国共産党が支配するシステムに入れ替え、 経済的にも軍事的にもアメリカを超えるグローバル超大国になることを目指している 」と指摘した。その中には当然、人民元の基軸通貨化も含む。

つまり、アメリカはこれまで、「欧米や日本が支援して中国が経済的に豊かになれば、民主的・平和的な中国に生まれ変わるだろう」と考えてきたが、それが幻想だったというのだ。ヒルズベリー氏は親中派として中国の改革開放路線を支持してきたので、この書籍は中国専門家として「間違っていた」と認めたことになる。

「100年」というのは、共産中国の建国100周年の2049年までを指す。しかし、習近平・中国国家主席は「マラソン」のペースを一気に上げ、自分の任期の2023年までに実現しようかという勢いだ。

AIIBと軌を一にして発表された、海と陸のシルクロードを軸にした経済圏構築を目指す「一帯一路」構想もその一環だ。それぞれシーレーンと中央アジアを通って中東、ヨーロッパまで「中華経済圏」にしようという野心的な構想は、まるで東欧まで侵略したチンギス・ハンのモンゴル帝国のようだ。

中国は建国以来、アメリカ軍を追い出すことを目指してきた

軍事的には、中国は建国以来、計画的にアメリカに対抗できる軍事力の構築を進めてきたことが分かっている。

建国から約5年後の1955年に核開発を決断し、その約10年後の64年に初めての核実験を行い、実用化に達した。70年に日本を射程に収める中距離弾道ミサイル、80年にはアメリカ本土に届く長距離弾道ミサイルの開発に成功し、日米を核で脅せるようになった。

並行して海洋調査の範囲を拡大し、80年代に南シナ海、90年代に東シナ海、2000年代に太平洋にまで広げた。さらには80年代後半、潜水艦からのミサイル発射実験を初めて成功。その技術を進歩させ、今やアメリカに届くミサイルを潜水艦から発射できるまでになった。

海洋調査は、自国の潜水艦の通り道や隠れ場所を確保すると同時に、アメリカや日本の潜水艦を排除するためのものでもある。中国は、水深の深い南シナ海に原子力潜水艦を潜ませるとともに、太平洋ではアメリカの空母を日本や台湾の近海に近づかせない戦略を採る。中国が南シナ海の西沙・南沙諸島双方で軍港や飛行場を建設しているのは、海面下の「潜水艦基地」としての南シナ海の制海権・制空権を押さえるためだ。

07年には中国軍幹部がアメリカの太平洋軍司令官に対し、「太平洋を中国とアメリカで分割して管理しよう」と提案するに至った。建国後すぐの核開発の決断から始まって60年。とうとう「アメリカを西太平洋や南シナ海から追い出そう」というところまで到達したのだ。

やはり、習近平氏の下、中国の「100年マラソン」は加速度的にペースを上げている。

AIIB参加は、グローバル・スタンダードへの「NO」

AIIBをめぐる今回のアメリカの「敗北」は、「自滅」の面も強い。

元米財務長官のラリー・サマーズ氏は米紙などへの寄稿で、こう指摘した。

「この1カ月は、アメリカが世界経済システムの"引受人"としての役割を失った時として記憶されるだろう」

「これからは緊縮財政を押し付けるのではなく、投資の促進を優先すべきだ」

アメリカは1980年代以降、IMFや世界銀行が途上国などに援助や融資をする際、緊縮財政や貿易・投資などの自由化、公営事業の民営化を、「グローバル・スタンダード」だとして押し付けてきた。これは「ワシントン・コンセンサス」とも呼ばれ、アメリカ財務省やIMF、世界銀行などの意見が一致し、協調して行動しているとされる。その根底には、「何でもその時々の値段で売り買いすることで利益を得よう」というユダヤ系金融資本の考え方がある。金融機関やその他の企業の不良債権を減らしてバランスシートをきれいにすれば、高値で売り買いできるという算段だ。途上国や新興国はこの"餌食"になった。

1997年のアジア通貨危機で、タイやインドネシア、韓国などにこれを行なった。IMFは緊縮財政や金融引き締めを求め、各国の経済はガタガタになった。

現在のギリシャ債務危機もIMFが「政府の支出を減らせ」と条件を付けたことが迷走の理由だ。低迷する経済を立て直すために一定の景気対策が必要だが、その手段が縛られ、失業者が増え続けている。

「グローバル・スタンダード」は世界中で「貧乏神」の機能を果たしており、すっかり信用を失ってしまっている。

こうした問題に対し途上国や新興国から不満が上がり、IMF改革が求められていたが、アメリカが最も消極的だった。

今、アジアは、世界で最もインフラ整備のニーズが大きい地域だ。道路や鉄道、ダム、電力などのために、毎年100兆円規模の資金が必要で、途上国は先進国からの融資や援助を切望している。途上国にとって低利の資金はのどから手が出るほどほしいものだ。

しかし、世界銀行やその傘下のアジア開発銀行は、融資の相手国に健全財政という名の緊縮財政を求めてくる。ならば、少々問題があっても、細かい条件を付けないであろうAIIBでも構わない、という理屈だ。

英独仏など先進国もユーロ危機から現実的に考えれば緊縮財政をやめたいだろうし、同時に資金余剰に悩んでいる。アジア各国に融資して一定のリターンが期待できるなら、AIIBを活用したい立場だ。

AIIBに参加したアジアなど57カ国は、アメリカ主導のグローバル・スタンダードに「NO」を突き付けたのだった

経済的・軍事的覇権の交代はこう起こった

中国が目指している経済的・軍事的覇権の交代が、これから本当に起こってくるのだろうか。

世界的な覇権国は16世紀以降、スペイン、オランダ、イギリス、アメリカへと移ってきた。いずれも豊かになった国が他の国に投資したり交易を拡大したりしようとして、国民や投資を護るために強大な海軍を持つに至ったものだ。

海軍が世界をパトロールすることで、「何かあったら在留国民の生命や財産を、武力を行使してでも護る。力づくでも資金を回収する」という意志を示すことができる。その結果、投資した対象国は、「その国の企業や工場をいじめたり、約束を破ったりすることはやめておこう」と考えるようになる。七つの海を支配したイギリス海軍は、商売上、取りっぱぐれないための最終手段だった。

つまり、世界中に投資したり資金を貸したりするお金持ちの国は、必ず軍事力を強化する。世界最大の債権国が入れ替わるのに遅れて軍事大国が入れ替わる。それが覇権の交代だった。

イギリスからアメリカへの覇権の交代は、第一次・第二次大戦をアメリカからの借金で戦ったイギリスの保有していた金が、戦後一気にアメリカに移ったことで起きた。第二次大戦直後には、世界の中央銀行の持つ金(ゴールド)の3分の2がアメリカに集中するまでになった。

イギリスの持っていた金は、世界中で貿易決済に使われていた基軸通貨ポンドを裏付けるものだったので、イギリスは基軸通貨の地位を失った。イギリスはアメリカからの借金を返すために、七つの海を支配した海軍の艦船の多くを売りに出さざるを得なかった。

アメリカのドル覇権の正体

アメリカは、当時のイギリスと同じような世界最大の借金大国だ。ただ、アメリカ政府が発行する借金の証書(国債)を、戦後に経済大国に成長した日本の金融機関がせっせと買い、アメリカの財政を支えるという特殊な構造になっている。

日本の製造業などが他国に製品を売ってお金を稼ぐ。それが国民の個人金融資産となって金融機関に蓄えられる。そこから日本の国債を買う場合もあれば、アメリカの国債を買う場合もある。こうして海外に貸し出される資金は世界最大で、日本は2013年末時点で23年連続で世界一の債権大国だ。アメリカ国債の保有額で、しばらく中国に抜かれていたが、2015年2月、6年半ぶりに日本が世界一に"復帰"した。イギリスからアメリカへの覇権交代のパターンでいけば、「日本に覇権が移る」となりそうだが、残念ながらそうはなっていない。

なぜなら、イギリスの借金がドル建てで、ドルをかき集めて返済しなければならなかったのに対し、アメリカはドル紙幣を刷れば、借金返済に充てられるためだ。加えて、ドル紙幣を大量に刷ることで、世界中から製品・サービスを買うことができる。

それは、1971年、ニクソン大統領が「ドルを金で裏付けるのをやめた(ドルと金との交換をやめた)」と宣言したことに始まる。貿易赤字が拡大したことで金が流出し、ドルの価値が下がっていったため、固定されていたドルの為替レートを変動相場へと移行させた。

それ以降、ドルは、「アメリカ政府の税収は今後もたくさんあるだろうから、それを裏付けとする」ということになった。アメリカ政府の徴税権と国有財産がドルの信用のもとになっている。さらに突き詰めれば、移民大国のアメリカは世界から優秀な頭脳を集め、なお経済成長を続けるであろうと予測でき、それがアメリカの税収の担保となっていることがドルの裏付けになっていると言っていい。

有史以来、通貨は金や銀など何らかの「モノ」によって裏付けられていた。紙幣を金(ゴールド)で裏付けるというのは、イギリスで、銀行(両替商)に金を預けた際の預り証をビジネス上の取引で紙幣として使ったのが始まりとされる。それをやめたという意味では、一つの発明ではある。

結局、 「アメリカに行って刻苦勉励すれば成功をつかめる」というアメリカン・ドリームの考え方が健在で、アメリカの経済発展の原動力であり続けるならば、それがドルの裏付けとなる

貨幣の信用の裏付けをどうつくり出すか

本筋から少し逸れるが、国の繁栄を考えるならば、貨幣の信用の裏付けをどうつくり出していくかが重要だ。

幸福の科学の大川隆法総裁は2014年3月の法話「 未来創造の帝王学 」で、「 未来人類にとって役に立ち、彼らが振り返って、前(の時代)にいる人たちに感謝する仕事をすることが、経済の拡大につながる。これが新しい時代の貨幣の信用の裏付けになると思われます 」と語っている。

アメリカはこれを移民の頭脳で行っていることになる。

日本の場合、どうすればいいのか。アメリカと同じように移民受け入れに舵を切るのかどうか。

大川総裁は著書『 資本主義の未来 』でこう指摘した。

今までにないものをつくり出す、考え出す、生み出す力です。これが大事であり、『どうやって、創造的な頭脳をこの国につくり出すか』ということが大事なのです

その意味で、教育の生産性を高めなければいけません

宗教的に言えば、『インスピレーショナブルな頭脳』をつくらなければいけないということです

少なくとも、アメリカ以上の高い教育の生産性を目指さなければならないのは間違いない。

オバマが"覇権の交代"を望んでいる

アメリカン・ドリームの価値以外の、ドルのもう一つの裏付けは、世界最強の米軍の力だ。米軍が、世界を飛び回るアメリカのビジネスパーソンや投資されたお金、物資を輸送する海上交通路を護っている。

イギリスの歴史家ポール・ケネディは『大国の興亡』で、「軍事費にお金を使いすぎて覇権は崩壊する」と書いたが、アメリカでは、「世界最大の軍事費がドル紙幣とアメリカ国債を世界中で通用させている」という逆転構造が生まれている。

幸福の科学の大川隆法総裁はさらに突き詰めて、米軍が他国に“強盗"に入れることがドルの"信用"になっていると、著書『朝の来ない夜はない』で指摘している。

「実は、アメリカの経済は世界一の軍事力で担保されているのです。これは、『本当にお金に困ったら、アメリカは国家レベルで“銀行強盗"ができる』ということです。それができるのが怖いところです。アメリカは、世界最強の第七艦隊を持っているので、これを中東に派遣し、オイルマネーを集めている国を“占領"すれば済んでしまうのです」

この点を踏まえれば、アメリカのドル覇権は、世界中から優秀な人材を集めて大成功させる「アメリカン・ドリーム」の考え方と、「米軍がグローバルな経済活動を護る」という意志によって支えられている。その意志が強固である限り、ドルが世界で使われるので、「いくらでも刷っても構わない」ということになる。ニューヨーク連銀の調査では、ドル紙幣の6割以上が海外で流通している。

ただ、ドル覇権が中国による挑戦を受けて揺らいでいるのは、オバマ大統領が、成功者を生む自由な競争よりも「格差是正」を重視し、アメリカン・ドリームを否定的に考えているためだ。

同時に、 「アメリカは世界の警察官ではない」と宣言し、財政赤字を減らすために国防費をカットしていっている。これもアメリカの覇権を切り崩している

これではまるで オバマ大統領自らが"覇権の交代"を望んでいるかのようだ

一方、中国は長期的に人民元の基軸通貨化を目指し、人民元建ての貿易決済を増やそうとするなど国際化を進めてはいる。ただ、外国人が持つ人民元を中国国内に株式投資することを制限するなど、国内外の資本の自由化を拒んでいる。また、為替相場を管理して人民元を割安に抑えており、実質的には「為替操作国」だ。このため、現時点では人民元は国際通貨になっていないし、基軸通貨国の資格もない。

それでも、ドル覇権が揺らぎ、「人民元覇権」の芽が生まれているのは、やはりオバマ大統領を始めとして、アメリカの「自滅」の面が強いからだと言える。

中華経済圏は、「新植民地主義」になる

とはいえ、習近平氏が構想する「中華経済圏」は、人類にとって幸福なものにならないようだ。それはすでに、世界で起こっている。

猛烈な勢いでアフリカなどに進出し、原油や鉱物、食糧など資源を買いあさる様は、まさに「爆食」。道路やダム、鉄道などインフラ投資をしても、中国人を雇い、中国製資材を使うことが条件。現地では雇用も産業も生まれない。

さらには法律を無視し、自然環境を破壊するとなれば、まるでイナゴの大群が襲ってきたようなもの。アメリカ流のグローバル・スタンダードが「ワシントン・コンセンサス」であるならば、中国流の経済進出は、欧米の常識やルールを無視する「北京コンセンサス」であるという指摘もある(英ケンブリッジ大のハルパー教授)。

これに対し、「新植民地主義」であると、現地の指導者たちから非難の声が上がるようになった。

ナイジェリアの中央銀行総裁、ラミド・サヌシ氏は2013年3月、イギリスのフィナンシャル・タイムズ紙への寄稿でこう指摘している。

「中国はアフリカから一次産品を奪い、工業製品をアフリカに売りつけている。これはまさに植民地主義の本質の一つだ」

そのうえで、「新しい帝国主義に対し、つけ入る隙を見せている」と中国の経済進出に対する警戒感をあらわにした。

アメリカのクリントン国務長官(当時)も2011年6月、アフリカ歴訪の際、中国のアフリカ進出を念頭にこう述べている。

「外国人がアフリカにやって来て、自然資源を持ち去り、指導者にお金を払い、立ち去っていく。現地を離れる際、アフリカの人々にはあまり多くを残さない。アフリカで新たな植民地主義が現れることは望まない」

習近平氏の「一帯一路」構想はかつてのモンゴル帝国の最大版図を超える支配圏を目指す?

習近平は何を仕掛けてくるか

AIIBや「一帯一路」構想は、習近平・国家主席が「新しい帝国主義」「新しい植民地主義」をさらに加速させようというものだ。

幸福の科学のリーディングでは、習近平氏はモンゴル帝国の初代皇帝チンギス・ハンであることが明らかになっている。2010年10月、習近平氏の守護霊の霊言が収録され、ここでこう語った。

「『大中華帝国』という新文明の建設に入ろうとしているわけだ。欧米文明は終わったということだよ」(大川隆法著『世界皇帝をめざす男』)

チンギス・ハンは世界史の教科書で、東洋の偉大な英雄とされているが、史上類を見ない殺戮者だった。チンギス・ハンは、西方への大遠征で圧倒的な機動力を誇る騎馬兵で勝利を重ね、東ヨーロッパまで攻め込んだ。その際、恐ろしい戦い方をしている。

例えば、捕虜を盾にして戦闘の最前線に押し出し、ひるんだり後退したりした者はモンゴル軍が殺害した。ある国といったん同盟して戦いながら、勝利すると、その同盟国を裏切って滅ぼした。

反抗した国の人々は全員が容赦なく殺された。降伏した場合でも、全員を虐殺し、その町を廃墟にしたこともあった。彼らが泣き叫ぶ姿を見るのが「無上の幸福」と語ったという。

敵の指導者の処刑は、耳と目から溶けた金属を流し込むという残忍なもので、東ヨーロッパで「地獄の死者」と恐れられた。

チンギス・ハンは宗教に寛容だったとも言われているが、イスラム教の聖職者に馬の世話をさせ、聖典のコーランを馬のえさにした。

自分を"神"に位置づけ、絶対服従を強要する異常者と言っていいかもしれない。現に、先の習近平守護霊の霊言では、「私は世界最高の神だよ」とうそぶいていた。

AIIBも「一帯一路」構想も、南シナ海での軍事拠点拡大も、習近平氏が"神"として世界を支配するプロセスなのではないかと警戒しておくべきだろう。

日本の金融は、「二宮尊徳方式」

チンギス・ハンの侵略のような中国の覇権は、日本がアメリカと協力して阻止しなければならない。そのためには、日本に「世界の経済発展と秩序維持に責任を負うぞ」という決意と使命感が必要だ。

そのうえで、為すべきことは以下の4点だ。

(1) 世界一の債権国(お金持ちの国)として、途上国に資金を供給し、産業を興す役割を担う 。日本の金融機関のスタイルは「二宮尊徳方式」と言うべきもので、時間をかけて経営者を育て、支える金融哲学がある。

尊徳は、困窮して借金を抱える一家を救う際に、借金を免除してやったり農具や住むところを与えてやったりしても、かえって貧困が増すとして、本当に貧しさを脱してもらうための方法を考え抜いた。

「長い間に染まった悪い習慣を改心し、農業に精を出すようになってから恩恵を施せば、若い木に肥やしをやるように再び伸び始める」

尊徳はこの考え方に基づき、「五常講」という信用組合に似た制度をつくった。例えば、1千万円を貸し付けて、毎年100万円を返済するとする。10年で1千万円を返し終えられるが、もう1年かけて100万円を払ってもらって、それを利息とするという仕組みだ。

「五常」とは、仁(慈悲や奉仕の心)、義(筋を通すこと)、礼(感謝の心)、智(努力と工夫)、信(約束を守ること)。借金に苦しむ人がこの五つの徳目を守ると“改心"するならば金を貸すことを認め、「五常」が実行できるよう教化指導した。

明治期の安田善次郎ら銀行家は、相手の才覚と決意を見て、融資に値するか判断していたが、それは尊徳の「五常講」の精神そのものだと言っていい。この精神なくして、明治の殖産興業は実現しなかった。

その伝統は、大正・昭和へと受け継がれている。

朝鮮半島や台湾を日本が統治した際、産業を興し農村を近代化できたのも、勤勉に働き、工夫し、協力し合う価値を産業人や農民に徹底して教えたからだった。第6代朝鮮総督の宇垣一成は1931年の着任後すぐ、農村復興運動をスタートさせたが、最も重視したのは「心田開発」、つまり朝鮮の人々の心の持ち方だ。心の持ち方とは「奉仕・協同・自助の精神」で、二宮尊徳の精神そのものを教えていった。

戦後の復興期も、日本中で担保に値するものはほとんどなかったが、銀行は人物を見てお金を貸していた。終戦直後から10年から20年の銀行融資は大半が実質的に不良債権だったが、復興が軌道に乗ってくると、多くが優良債権に転換していった。担保となったのは、「社長本人の信用」だけだったと言っていい。

アジア・アフリカの貧困国で産業を興すには、日本の金融の尊徳精神が必要だ。アフリカの貧しい国の人に、「自分で手元資金をつくってから、大事業を起こせ」と言っても、何十年もかかってしまう。日本が明治以降、実践してきた「二宮尊徳方式」の出番となる。それによって初めて、1600兆円以上にのぼる日本の個人金融資産が生かされる。

輸入大国と「最後の貸し手」の役割を果たす

(2) 途上国の産品を積極的に輸入することも日本の役割だ 。先進国に買ってもらって初めて産業が育つ。その意味でTPPなど貿易の自由化は大国の責任である。途上国が先進国から高品質の工業製品を買うところまで発展すれば、共存共栄になる。

日本経済とリンクさせて世界経済の歯車を回し、世界の人口70億人の仕事をつくっていく気概が要る。

日本によるODAや円借款など対外援助の役割も大きい。アメリカが第二次大戦後に行った、欧州復興支援のためのマーシャル・プランや、日本の飢餓を防ぐためのガリオア・エロア資金はドル建てで行われたため、ドル覇権を確立する下地になった。

途上国の産品の輸入も経済援助も、大国の責任の一つだ。

(3) アメリカ主導のIMFなどが「最後の貸し手」の役割を十分果たしていない分、日本がその機能を補う

基軸通貨国は本来、世界で最も多く対外資産を持つ国で、世界のどこかの国で金融危機が起こったら、「最後の貸し手」として資金を供給して資金循環が滞らないようにする役割がある。1929年の世界恐慌後のイギリスは、基軸通貨国としての役割を果たせなかった。1932年、ドイツとオーストリアで金融危機が起こったが、イギリスにもはや救うだけの力がないので、世界一のお金持ちの国になろうとしていたアメリカに助けを求めた。しかし、アメリカの答えは「自分は関係ない」だった。その結果、世界経済が不安定化し、第二次大戦へとなだれ込んでいった。

その反省からアメリカが基軸通貨国としての責任を負うドル中心の国際通貨体制(ブレトンウッズ体制)ができた。しかし、戦後70年が過ぎ、アメリカに「最後の貸し手」としての自覚が薄くなっている。

2008年のサブプライムローン危機では、日本がIMFに1千億ドルを拠出し、世界恐慌の可能性を止めた。2012年のギリシャ債務危機でも、日本がIMFに600億ドルを出したことで、世界的な経済危機を止めることができた。

さかのぼって1997年のアジア通貨危機の際は、日本が「最後の貸し手」になろうとして「アジア通貨基金」を設立しようとしたが、アメリカに反対され、日の目を見なかった。

その間隙をぬって中国がAIIBを設立するわけだが、今こそ日本は同基金の構想を復活させ、アメリカと協力して運営すべきだ。

日本が主体的にシーレーンを護る

(4) 日本も空母や原子力潜水艦、海兵隊を持ち、アメリカと共同して行動する 。実際、アメリカは海上交通路(シーレーン)を護る役割を日本が分担するよう求めているが、受け身ではなく、主体的に“治安維持"の責任を負うべきだろう。世界中にお金を貸す国が「取りっぱぐれない」ために強い軍隊を持つのは自然の流れだ。

自衛隊の装備や人員の増強について財務省が反対し、日本の防衛費はこの10数年、ほとんど増えていない。しかし、これこそ政府の「財布」しか見ない狭い視野の判断だ。アジアの平和を護る自衛隊は「公共財」であり、そのために国債を発行すれば、中国の軍事覇権を警戒するアジア各国から資金を集めることができる。財務省が拒否するのであれば、防衛省が「国防債」や「アジア安全保障協力債」として、債券を発行すべきだろう。

中国が南シナ海の制空権、制海権を握ろうとし、シーレーンが中国にコントロールされていく中では、日本は毎年10兆円ぐらいの投資を防衛分野で行っても構わないぐらいだ。単に日本の自衛隊だけを増強するのではなく、インドやオーストラリア、インドネシア、フィリピン、マレーシアなどの海軍の拡充に協力しながらであれば、「日本は軍国主義化している」という見方にも反論できる。

当然、自衛隊の行動を極端に縛る憲法9条の改正し、防衛軍と位置付けることが欠かせない。自衛隊が他のアジアの軍隊と協力する際、足を引っ張ることがあってはならない。

繰り返しになるが、「世界の経済発展と秩序維持に責任を負うぞ」という決意と使命感が、上記の4点の大前提だ。

アメリカが世界の覇権国であり、基軸通貨国であり続けているのは、根本的には、アメリカの経済と軍の力で世界の経済を支えるという強い意志が持続されているからだ。それはある意味で、大国としての「ノーブレス・オブリージ(高貴なる義務)」だろう。

日本が本気で、世界の経済と秩序の安定に責任を負おうとするのかどうか。それが問われている。

円が基軸通貨になる時代が来る

これらの日本の決意と行動の結果として、世界で円建ての貿易決済や金融取引が増えていく。現在はそうした世界の国際決済のうち、わずか約3%しかない。ドルの約45%までいかなくても、ユーロの30%程度はあってしかるべきだろう。

同時に、アメリカ国債のように「日本国債や円建ての金融商品で資産を持っておこう」という国や企業も増えていく。中東の産油国をはじめ、中国にも日本国債を買ってもらうべきだろう。アメリカ国債は約3割が外国政府と海外の投資家が持っている。アメリカ国債の値段は安定しており、日本国債もそのぐらいの割合は海外で持たれても何の問題もない。

世界中の投資家にとっては、ドルの価値がどんどん下がっていっているので、ドル建てのアメリカ国債を持ち続けていると目減りしてしまう。それを避けるために、「通貨価値が安定している円建てで資産を持ちたい」というニーズは大きい。「日本国債を持ちたい」という需要に応えるべきだろう。

こうして「円経済圏」が拡大すれば、円建ての貿易決済や取引、日本国債保有だけでなく、ジャパン・マネーを呼び込もうという動きも本格化する。アジア・アフリカ各国の政府や企業が円建てで国債や社債を発行し、資金調達しようという動きが当たり前になる。国内外の金融機関がこぞって、魅力的な金融商品を開発し、1600兆円の日本の個人金融資産に対し、売り込みをかけてくるだろう。

ドルのように圧倒的な基軸通貨が君臨する時代は珍しく、複数の通貨が国際通貨として併存しているのがノーマルだ。また、イギリスのポンド覇権は、第一次大戦後の時点でほとんど終わっていたが、アメリカのドル覇権ができるまでには、第二次大戦後まで30年間を必要とした。弱体化しているドル覇権の一部を「円覇権」が肩代わりするには、ある程度の時間がかかるだろう。

ただ、その時には、国際決済や各国当局が持つ外貨準備の3割程度が円建てになって、 アジア・アフリカ圏の「公共財」になれば、ドルに近い形で「円紙幣がいくらでも刷れる」時代となるだろう

世界の平和と繁栄に対する日本の責任感が、中国の野望を挫く

AIIBや「一帯一路」構想で示された中国のビジョンは明確だ。人民解放軍の軍事力とAIIBの資金力で、海と陸のシルクロードを中国方式(北京コンセンサス)にもとづいて支配するというものだ。

しかし、21世紀中に世界の人口が100億人に向けて増えていく中で、中国だけが豊かになる「北京コンセンサス」では、世界の経済は成り立たない。100億人が食べていけるだけの産業や仕事がなければならない。貧乏神発想の「ワシントン・コンセンサス」でも同様だ。

大川隆法総裁は、近著『 国際政治を見る眼 』で、世界経済をリードする哲学が見えなくなっていることに触れ、こう述べている。

これは、何か、『新しい基準』『世界の向かうべき方向』を、はっきりと打ち出さねばならないということであり、その『新しい方向』とは、新しい世界の秩序をつくるための倫理、および、その倫理に経済原理を含んだものでなければならないでしょう。したがって、『地球的正義とは何か』という考え方の下に、同時に、世界的な経済発展を促すような倫理でなければいけないのではないでしょうか。

大国がみな、『世界から撤退していき、自分の国の経済が何とか潰れないようにする』というだけの方向に行くと、シュリンク(縮小)、つまり、地球全体が縮んでいく状況となり、そのなかで、『人口だけは増えている』ということになりますと、このあと、きっと"恐ろしいこと"が起きるだろうと思います

日本は「新しい基準」「世界の向かうべき方向」を、「東京コンセンサス」として打ち出さなければならない。それは、上記の4つの提言に示したように、二宮尊徳精神によってアジア・アフリカで産業を育て、日本と共存共栄することであり、その繁栄を軍事的にも下支えすることだ。やはり、世界の繁栄と平和に対する日本の責任感が問われている。

それがAIIBをめぐる中国の野望を挫く出発点にもなる。

綾織次郎

今月の結論

  1. 中国のアジアインフラ投資銀行はアメリカの覇権に取って代わる戦略の一環。
  2. オバマ大統領自身が、中国に覇権を譲り渡すような考え方を持っている。
  3. 日本が戦略を立て、行動すれば円の基軸通貨化など"日本の覇権"も可能。