中国の習近平国家主席が戦後70年を記念してロシアを訪問し、プーチン大統領と会談したことを、各紙が報じている。

欧米の経済制裁に苦しむロシアと、欧米主導の戦後体制をひっくり返したい中国は、利害が一致するため、最近、急速に協力関係を深めている。両国に共通しているのは、アメリカの世界的な影響力を弱め、新しい世界秩序をつくることだ。

その象徴として、国際通貨基金(IMF)や世界銀行といった、欧米主導の金融システムを象徴するブレトン・ウッズ体制に対抗し、中露両国は、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やBRICS銀行などを主導・参加している。

他にも、両国はすでにさまざまな分野で結びつきを強めている。

  • 北京―モスクワ間を結ぶ高速鉄道の開発
  • アジアからヨーロッパに延びる北極航路の開発
  • 中国と中央アジアをつなぐ一帯一路構想という、新たなシルクロードの開発
  • 中国・ロシア・中央アジア諸国を、政治的・経済的・軍事的に結ぶ上海協力機構(SCO)の設立

米シンクタンクであるカーネギー・モスクワ・センターの会長ドミトリー・トレニン氏が最近発表した論文で、興味深い指摘をしている。「ここ(中露関係)から生まれるものは、中央・北方・東アジアを席巻する巨大な貿易・投資地域です。ビジネス・センターとなる上海から、ヨーロッパの玄関にいたるサンクトペテルブルクまで、中国を中心とした『大アジア』が誕生するでしょう」

中国の覇権主義の脅威にさらされている日本にとって、ユーラシア大陸で中国の影響力が増大することは好ましくない。

問題は、ウクライナ紛争を巡る経済制裁で、欧米がロシアを窮地に立たせた結果として中国側に押しやっていることである。習氏は今回の訪問で、ロシアへの大規模なインフラ投資を約束したが、このようなことは本来日本が手がけるべきものだろう。

これまで中国は中央アジアへの影響力拡大をしてきたが、これもロシアの協力なくしては実現できなかったはずだ。つまり、中露の接近は、ロシアと対立関係を深めた欧米の不見識と、米露関係を仲介できなかった日本の外交力の不足によるものという言い方もできる。ロシアを中国から引き離すために、日本は独自の外交を主導すべきである。

また、今回特筆すべきは、中露の協力関係にイスラム圏の国々を含む中央アジア諸国が加わろうとしていることだ。中国・ロシア・イスラム圏のブロック体制ができ上がれば、欧米との新たな対立の火種となりかねない。

日本は中央アジアの国々に対しても、独自の経済支援だけでなく、民主化・近代化を促すように協力すべきである。自由主義陣営に引き込むことで、中央アジア・イスラム圏の長期的な繁栄と、有事の際に、これらの国々が中国に協力しないようにすべきだ。

覇権国家を目指す中国の世界戦略は着々と進んでいる。日米欧は、東シナ海・南シナ海といった海洋上の問題だけでなく、アジア大陸における中国の思惑にも注意を払う必要がある。(中)

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