オバマ大統領(左)とプーチン大統領。2014年8月当時(画像は Global Panorama / flickr

ウクライナ東部での混乱をめぐり、オバマ米大統領とイギリスなどのヨーロッパ4カ国の首脳はこのほど、テレビ会議を行った。会談では、2月12日にロシア側と結んだ停戦合意に重大な違反などが発覚した場合、同国への追加制裁を行うことで一致した。

アメリカは依然として、ロシアに圧力をかけ続けるが、欧米側でここ最近強まっている意見は、ロシアをさらに追い詰めるためにウクライナに武器を供与する、というものだ。これまでのウクライナ支援は、防弾チョッキや医薬品などの「非致死性の物資提供」にとどまっていた。今後、停戦の合意が破綻すれば、アメリカのタカ派(強硬派)議員が、武器供与を求める声が強まるだろう。

武器供与はウクライナを苦しめる

一方で、ウクライナへの武器供与は、紛争がさらにエスカレートすると懸念の声も上がっている。

ニューヨーク市立大学教授のラジャン・メノン氏とバーナード・カレッジ教授のキンバリー・マルテン氏は、「ウクライナを救うためには、武器の援助ではなく、経済援助すべき」と主張する(日本語版「フォーリン・アフェアーズ」2015年3月号)。

また両氏は、「ウクライナは、アメリカよりもロシアにとってはるかに重要な国だ。この利益の非対称性を考えると、(アメリカが武器供与すれば)プーチンは攻勢を強めて、さらに掛け値をつり上げるかもしれない」「ウクライナに武器を提供すれば、紛争は長期化する。紛争の長期化が、(通貨価値が半減するなどの)経済危機に直面する国(ウクライナ)の助けになるだろうか」などと述べ、武器供与に反対している。

さらに、「武器を与えるとして、その後の兵器の流れを監視するのも容易ではない」とし、ウクライナ東部にいる様々な武装集団を通じて、他の紛争地帯にアメリカ製の武器が流れかねないという。

ロシアが「南シナ海の中国化」を後押し

また、アメリカがウクライナに武器供与すれば、ロシアは中国に対する軍事支援を強化する可能性を指摘する声もある。

米ナショナル・インタレスト誌編集主幹のハリー・カジアニス氏によれば、中国は伝統的に弱点である対潜戦闘(ASW)向上に興味を示しており、高性能の潜水艦を持つロシアは、その売却や技術援助を含めて中国を支援することができるという(同誌2月25日付電子版)。

本誌・本欄で繰り返し述べてきたように、ウクライナ紛争の長期化による「アメリカの戦力分散」と「南シナ海の中国化」は、日本にとって防がなければならないシナリオだ。

しかし、日本政府は、ロシアとアメリカの対立を仲裁するなど、積極的な外交姿勢を見せていない。これでは、アメリカやロシアなどの大国の利害に板挟みになるという、従来の弱腰の日本と変わらないのではないか。日本は、国益を重視した独自の外交を行わなければならない。(山本慧)

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2015年2月18日付本欄 ウクライナ停戦ならず 問題の本質はウクライナの経済問題

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