前回の経済編では、原油安における各国の経済的背景や影響について触れたが、原油価格の暴落は、国際情勢や外交にも影響を及ぼす。

サウジアラビアが、自国の外資準備金を減らしてまで原油価格の低迷に手を打たないのは、本当にシェールオイルつぶしと、市場のシェアの縮小を懸念してのことなのか。経済という視点のみで見るとその通りかもしれないが、原油価格の暴落には、政治的メッセージが隠れていることが多い。

実は、産油国であるイランはイスラム教シーア派が主導する国家だが、同国は現在、アメリカとの間で、核開発の協議を進めている。この動きにもっとも懸念を示しているのは、アメリカと手を組むイスラエルだが、それ以外で言うと、サウジアラビアのような、イスラム教スンニ派のペルシャ湾国家が挙げられる。

以前、サウジアラビアのアブドラ王は、アメリカの大使に「もしイランが核兵器を所持したら、我々もそうする」と発言した。その意味で、イランの核開発を止めたいアメリカとサウジアラビアの利害は一致する。

つまり、アメリカとイランの核開発協議が続く中で、サウジアラビアが意図的に原油価格を低く維持させ、イランの経済と財政に圧力をかけることによって、協議がアメリカ側に有利になるように誘導している可能性もあるというわけだ。

この仮説が正しければ、アメリカは、原油価格の低迷から起こるかもしれないシェールブームの崩壊と引き換えに、核開発問題で揉めているイランや、ウクライナ問題で揉めているロシアに対して、圧力をかけるために原油価格の暴落を黙認していると考えられる。

イランやロシアは、経済制裁の苦しみから逃れるために、中国などへ輸出先の多様化を図っているが、中国経済の失速と原油価格の低迷を考えると、財政を支えられるかどうかは分からない。

これらの国々が、経済的な課題と、地政学的・外交的な問題のどちらを優先させているかは分からないが、原油市場ひとつ取っても、こういった政治的な駆け引きが水面下で行われている可能性が十分にあるのだ。

ただ、各国の情勢から学ぶべきは、「わが国の経済は、石油のみで成り立っている」などという状態は危険であり、基本的に産業の多様化に成功している国が有利ということだ。アメリカでは、原油価格の低迷でシェールブームが終わったとしても、安い石油が消費の拡大や他の基幹産業を潤すため、石油の輸出のみに頼っている国に対して有利な立場に立てる。

日本でも、多くの企業が活躍しているが、もっと積極的に新しい産業領域に踏み込むべきだろう。アベノミクスの3本の矢でつまずいている「成長戦略」「規制緩和」を、航空・宇宙産業や防衛産業、新規エネルギー産業などの新領域で切り開いていくことは、経済の活性化だけでなく、安全保障上も、外交上も重要だ。(中)

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2014年11月25日付本欄 原油価格の低迷でシェールオイルの危機?

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