イラク西部からシリア東部を占領している過激派組織「イスラム国」が、イラク北部のモスルに住むキリスト教徒に人頭税を課し、多くのキリスト教徒がモスルから脱出した。各紙が報じている。

「イスラム国」は、モスルに住むキリスト教徒に、改宗するか、人頭税を払うか、あるいは街を出るか、という選択を18日に発令し、19日正午を期限として迫った。従わなければ「剣で死刑にする」ことも示唆しているという。キリスト教徒はタクシーにすし詰めになるなどしてモスルを脱出。その際に、持ち出そうとした宝石などをすべて没収された人もいるという。

モスルには、7世紀にイスラム教が成立する前から住んでいたキリスト教徒がおり、1カ月半ほど前に「イスラム国」が占領する前には、約3万5000人が住んでいた。

こうした異教徒に対する人頭税は、預言者ムハンマドの時代にもあり、当時は税を課すことでイスラムへの改宗を促していた。そのため「イスラム国」は復古主義と言われる。米CNNテレビによると、今回の人頭税は1世帯につき55万イラクディナール(約4万8000円)に上り、イラクの平均年収の5%とかなり大きな負担だ。それを払えなければ殺すというのは、あまりにも前近代的である。

イスラム国の代表アブバクル氏は、20世紀に廃止されていたカリフを名乗っており、周辺国を巻き込み、イスラム教徒をまとめる狙いがあると見られる。イスラムの復興を願ってのことのようだが、エジプトのイスラム法学者は、「残虐非道な行為と過激な思想で知られるグループによるカリフ任命は厳密なイスラム法の解釈によれば、まったく無効である」などとその正当性を否定している。そもそも「イスラム国」そのものが、周辺国から国家として承認されていない。

イスラムの復興や、イスラムの誇りを取り戻すということは許されても、他宗への人頭税は、明らかな宗教差別だ。「信教の自由」を始めとする人権意識を持つ現代人に、7世紀のルールを厳守せよというのは無理がある。「改宗しなければ殺す」「言うことを聞かなければ殺す」という組織には、何の正当性もない。今こそイスラム教そのものに改革が必要とされている。(居)

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