イラク情勢が悪化している。イスラム教スンニ派の武装組織「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」が、ここ1週間の間に同国北部にある都市を次々に制圧し、首都バグダッドに向けて南進している。これに対し、アメリカのオバマ大統領はこのほど、ペルシャ湾に空母を派遣し、新たに空爆も検討しているなど、イラクへの軍事支援の可能性について言及している。

ISISは、シリア情勢の悪化に乗じ、強盗や誘拐などで勢力を拡大させた集団で、新たなイスラム国家の建設を掲げている。しかし、そのやり方があまりにも残虐で過激であるために、国際テロリスト組織「アルカイダ」さえも、距離を取っていると言われるほどだ。

中東の秩序安定という面で、頼りにすべきアメリカだが、オバマ大統領が2011年に、イラクからの撤兵を掲げて大統領に当選したために身動きが取れないでいる。すでにオバマ大統領は、イラクへ地上兵を送らないと述べている。その代わりに、無人機による情報をもとに、有人機や無人機などで空爆をする計画を発表している。

だが、その効果は"限定的なもの"であり、イラクの治安状況を改善させる根本的な解決にはなり得ないだろう。

計画的なテロを行うアルカイダと比べて、ISISは、組織だった動きをせず、予期せぬ行動を取ることの多い集団だ。その拠点や攻撃目標は判然とせず、都市に潜伏してしまえば、民間人と区別がつかない。そうした状況で、無人機による情報に依存した空爆は、いたずらに民間人を巻き込む事態になりかねない。昨年に発表した国連の報告書によると、パキスタンでは、アメリカとイギリスによる無人機攻撃で400人以上の民間人が犠牲になっており、無人機の技術は発展段階であると言わざるを得ない。

さらに問題なのが、少なくとも25万人もの数を擁するイラク軍が、最大で1万1000人と言われるISISに押されているということだ。この理由としては、イラク軍の士気や訓練の未熟さが指摘されているが、この問題が無人機による遠隔支援で改善されるはずもない。

地上兵を送らないと宣言したオバマ大統領は、早々に自らの選択肢を減らし、テロリストを調子づかせただけである。ただ、残された選択肢と言っても、空爆に関する情報共有やイラク軍への軍事訓練などであり、アメリカ兵を送るほどのインパクトはないだろう。オバマ大統領の中東政策は、見直しが求められる。(慧)

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