価格やサービスを判断基準として、消費者が「電力を選ぶ時代」に入ろうとしている。
家庭への電力販売を、2016年を目途に自由化する「改正電気事業法」が、このほど参院本会議で可決した。これにより、すでにある電力会社以外の企業でも家庭に電気を売ることができるようになり、どの会社から電気を買うか自由に選べるようになる。
2000年以降、電力の小売りは段階的に自由化され、企業や工場などの大口利用者は、どの会社から買うかを自由に選べるようになっている。今回、家庭などの小口利用者の全面自由化によって、1950年代初頭から続く大手電力会社による地域独占が崩れることになる。
今回、自由化の対象となる顧客件数は約8400万件で、これは国内全体の電力需要の約4割にあたる。市場規模としては7.5兆円に上る。これを受けて、電力事業に参入しようとする企業数は244社と、昨年3月から一気に3倍に増えた。新規参入が進むことにより、企業間の価格競争で電気代が値下げされたり、魅力あるサービスが増えることも期待されている。
一方、新規参入には課題もある。1つ目は「停電リスク」だ。今回の法改正では、確実な電力供給を行うことを電気の販売会社に義務づけているが、企業間の競争が激しくなると、コスト削減のために余分な発電設備を持たなくなる可能性がある。
そのようなギリギリの状況で、もし「発電所トラブル」や「自然災害」などの緊急事態が起きたら、日本各地で停電が発生するリスクもある。突然の停電によって、病院の集中治療室にいる患者の方々の生命が危機にさらされたり、24時間稼働の工場生産ラインが大損害を受けるかもしれない。
課題の2つ目は「供給電力不足」だ。多くの新規参入企業は、発電所をもつ電力会社などから電気を仕入れてから、家庭などに売ることになる。ここで問題になるのは、大手電力会社は原子力発電所を止めているため、融通できるほどの発電余力がないことである。
今回の法改正を中身のあるものにするためには、原発の再稼働が進むかどうかにかかっていると言っても過言ではない。もちろん、原発再稼働による安定した電力供給は、「停電リスク」を回避するためにも非常に重要である。
電力は国家の成立に欠かせないインフラだ。電力については、消費者と企業側の両者ともに「自由化」と「安定供給」の両方の視点を持たなくてはならない。そのためには、法改正のみならず、カギとなる「原発再稼働」をいち早く実行していくことが望まれる。
(HS政経塾 松澤 力)
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