企業の国際競争力を高めるため、法人税の実効税率引き下げに意欲を示していた安倍晋三首相が、訪問先のイタリアで同行記者団と懇談し、法人税率の引き下げについて、「来年度から着手する」と時期について初めて明言した。

法人税減税には自民党内にも慎重な意見があるが、安倍首相は「野田(自民党)税調会長にこの方針でお願いしますと言っている」と、来年度からの実現を指示したことを強調した。具体的な引き下げ幅についての言及は避けたが、「国際競争に打ち勝つ観点と、財政再建の観点から、しっかりと議論を行っていく」と述べた。

現在、日本の法人税実効税率は、35.64%(企業に課される法人税、住民税、事業税などの合計)で、20%台が主流の国際社会に比べて高い。世界の主な国々は、アメリカ(カリフォルニア州)は40.75%と高いが、ドイツ 29.55%、中国 25.00%、韓国 24.20%、イギリス 24.00%、シンガポール 17.00%などとなっている。そのため日本の産業界からは、法人税減税について、「国際競争に影響する税率の引き下げは不可欠」「海外移転を抑制できる」「研究開発投資余力の増強になる」「設備と雇用の増加につながる」などの意見が挙がっている。

一方、財務省は、法人税実効税率を10%下げると法人課税の税収が約5兆円落ち込むという仮説を持っているため、減税する場合、その分を他の増税によって賄う姿勢を崩していない。「租税特別措置」や「繰越欠損金」などの政策減税の廃止もしくは縮小、また他の税目の引き上げを主張している。

しかし、せっかく法人税を下げても、他で増税すれば、「企業の国際競争力を高める」という目的にそぐわなくなる可能性が高い。

欧州の先例として「法人税のパラドックス(逆説)」と呼ばれる現象がある。コペンハーゲン大学(デンマーク)のピーター・セーレンセン教授が2007年に発表した論文では、EU15カ国の法人税の実効税率は、1995年から2007年までの間に37.7%から28.7%にまで引き下げられたが、経済成長により法人税収が増加し、法人税収の対GDP比は2.2%から3.2%にまで増加した、と報告されている。

安倍首相は記者団との懇談の中で、「税の構造を成長志向型に変革していく」と訴えている。これは、日本のもう一段の経済発展に必要な考え方だ。国民や企業の「自由の領域」を増やすための減税政策を推し進め、日本経済の真の復活を実現しなければならない。

(HS政経塾 松澤 力)

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