南シナ海での中国の実効支配強化の動きに対し、ベトナムやフィリピンが抵抗している。領有権を争っている海域で中国が一方的に大規模な石油の掘削を始めたことに対し、ベトナムは沿岸警備隊が中止を勧告。従わない中国船が、ベトナム艦船に放水したり体当たりするなどの暴挙に及ぶと、その現場の映像を世界に公開した。

「中国船による体当たり」というと、2010年9月に、尖閣諸島周辺で中国漁船が海上保安庁の船に体当たりした事件が思い浮かぶ。しかし、当時の民主党政権の弱腰姿勢と比べ、今回の事件ではベトナム側の毅然とした対応が際立つ。

ビデオを迅速に公開したベトナムの姿勢に対し、尖閣での事件では、中国を刺激するのを恐れた日本政府がビデオの全面公開を渋り、義憤に駆られた海保職員が、問題のVTRをネット上に流出させるという出来事もあった。

国際会議での振る舞い方でも、違いは鮮明だ。ベトナムは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会談の場で中国批判を展開し、名指しを避けながらも中国をけん制する内容を盛り込んだ「ネピドー宣言」の採択にこぎつけた。尖閣での体当たり事件があった後、菅直人首相が中国との「戦略的互恵関係」を再三にわたって強調し、首脳会談を乞い続けては中国側に足蹴にされたのとは大違いだ。

今回の事件では、フィリピンも、南沙諸島周辺でウミガメを密漁していたとされる、中国漁船の乗組員11人を逮捕、起訴している。海自の艦船に体当たりした船長を逮捕しておきながら、釈放させた民主党政権の姿勢とは雲泥の差と言える。

当時の日本の民主党政権は、日中関係の悪化を恐れて、中国に配慮し続けた。しかし、こうした宥和政策は日中関係の改善につながったのか。尖閣諸島周辺でのたび重なる領海侵犯や、一方的な防空識別圏の設定など、中国は日本に対して相変わらずの軍事挑発を続けている。

一方では、日本側の尖閣諸島国有化や、安倍晋三首相の靖国神社参拝が日中関係を悪化させたという声もある。しかし、海軍力を拡充してアメリカを西太平洋から追い出そうというのは、中国の国家戦略だ。こちらがいくら"配慮"して友好関係を築こうとしたところで、その戦略を簡単にあきらめさせることはできない。

重要なのは、自国の国防力を強化すると同時に、他の友邦との関係を強化して、中国の侵略行為を防ぐための備えを着々と固めていくことだ。日米は、ベトナムやフィリピンにといった国々への支援を惜しまず、中国の覇権主義を食い止めるよう策をめぐらす必要がある。

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