南シナ海のパラセル諸島沖で、中国の公船がベトナム公船に次々と衝突した事件を受けて、ベトナムでは、反中デモが全土に拡大している。16日には、暴徒化した市民が中国系企業を襲い、中国人2人が死亡。これまでに、暴動による被害は400社を超えるなど、ベトナム人の対中感情は劇的に悪化している。

しかし、事件があるまでの中国とベトナムの関係は、領有権争いがあるものの、比較的、良好であった。昨年6月には、ベトナムのチュオン・タン・サン国家主席が訪中。入れ替わりに中国の李克強首相がベトナムを訪れ、南シナ海の共同開発を検討する作業グループの立ち上げに合意していた。にもかかわらず一方的な石油開発に乗り出した中国に対して、ベトナムは反発し、国内では認められていないデモ活動を今回は黙認した。

だが、こうした両国の対立は初めてではなく、南シナ海では、1974年と88年に2度の軍事衝突があった。特に、ベトナム戦争末期の74年には、中国側がベトナム軍艦を1隻沈めた他、2隻を大破させた。陸上戦でも優位に立ったことで戦いに勝利した中国は、現在もパラセル諸島を実効支配している。これにより、ベトナム人の間では、中国への恐れと恨みの感情が根強いと言われている。

ベトナムにとって、中国に対抗するためのパートナー候補として、真っ先に挙がるのはアメリカだが、同国はベトナム戦争で戦った「敵」であり、国民感情としては受け入れづらい。ASEANも、南シナ海での中国の横暴に対して、名指しの批判を避けるほどの及び腰だ。とすると、ベトナムのパートナー役に適する国は、日本ということになる。日本とベトナムの間には、領有権争いのような障害はなく、海上自衛隊との連携は中国海軍へのけん制になり得る。実際、ベトナムは昨年12月、日本に対して巡視艇の供与を要請し、今年4月の日本との首脳会談では、安全保障の強化で一致している。

ベトナムには、多くの日系企業が進出し、周辺海域は日本のタンカーが多く通過することを考えれば、日本はベトナムとの連携を強化する必要がある。中国の軍拡に対抗するには、巡視艇の提供だけではなく、海上警備などでのより積極的な協力で、南シナ海の平和に寄与すべきだ。(慧)

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