岡山理科大学が、海水魚の飼育が可能な特殊な淡水「好適環境水」を使って内陸で育てたクロマグロ1匹を15日、岡山市の卸売市場に初出荷した。相場を上回る3万1900円(14.5キロ)で岡山県倉敷市の業者が競り落とした。

「好適環境水」は、同大の山本俊政准教授が開発した、カリウムなどを含んだ電解質に淡水を加えて開発した特殊な水だ。この水を使えば、養殖のための特別な装置や技術が要らない上に、海から遠く離れた山の中でも魚を育てることができる。さらに、魚が病気になりにくく、成長も速いと言われている。

山本准教授は2010年7月から、学内の巨大水槽でマグロ養殖を開始。今回初めて通称「理大マグロ」が一般消費者に届いた。同大ではこれまでに、ウナギやフグなど5種類の魚を出荷しており、味はもちろん、安全面での評価も高い。

養殖産業は近年、クロマグロの養殖に力を入れており、生産量が1万トンに迫る勢い。輸出の促進など販路拡大の取組みを行っている。今回「理大マグロ」は、通常のマグロ価格(1キロあたり2000円)よりも高い価格(2200円)で競り落とされた。収益性が見込める付加価値のあるものとして、認められたことの意味は大きい。この他にも人工海水の60分の1のコストで製造ができ、天候に左右されず計画出荷ができるなど様々なメリットがある。

養殖技術は食糧危機への解決にもつながる。砂漠地帯や海に面していない地域で、魚が養殖できることは、飢餓に苦しむ人々とっては、夢のような話だ。世界の飢餓人口はいまだに8億人を超えている。内陸での養殖ができれば、多くの人々の命を救える。

その意味でも、今回の初出荷は大きな一歩と言える。これからも、産学民が一体となって、日本発の未来産業として世界中で運用できる仕組みづくりに、取り組んでいくべきである。商業目的だけでなく、国際問題を解決する手段として、この発明を世界に広めていく使命が、日本にはあるのだ。

(HS政経塾 壹岐愛子)

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