中国が習近平国家主席肝いりで、「アジアインフラ投資銀行」の設立を進めている。

これは、習主席が昨年10月に東南アジアを歴訪した際に提唱したもの。中国が主導し、参加国が出資し合ってアジア諸国のインフラ建設に投資する。そこに、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国や、韓国など16カ国が参加を決めており、今秋にも覚書を交わすことがわかった。

注目すべきは、「アジアインフラ投資銀行」の参加国から、日米両国が除外されている点だ。「出資額の確保」という観点で言えば、これら経済大国が参加しないのは不自然だ。しかし、出資額の規模が、機関での発言力を左右することを考えれば、中国にとってあくまでも自国が主導権を握ることが重要なことがわかる。

アジア諸国にインフラ投資をする機関はすでに存在しているが、日米が大きな影響力を持っている。1996年に設立された「アジア開発銀行」は、「アジアインフラ投資銀行」が想定する3倍以上の資本金を持ち、インフラ投資の実績やノウハウを充分に蓄積している。同銀行は日米両国がそれぞれ15.6%という最大の出資比率を持ち、設立には日本政府が深く関わるため、銀行総裁は歴代日本人だ。中国もこの機関にも参加しているが、出資は4.6%と大きくはない。

中国が新銀行を設立するのが、この「アジア開発銀行」に対抗するためであることは明らかだ。

中国にとって、アジア諸国への投資は国益につながる。自国が主導して資金を集めて新興国に投資することで、対象国に恩を売り、地域での影響力を拡大することができる。また、インフラ建設の受注を中国企業が獲得する可能性も大きい。この新銀行設立を、中国の「覇権戦略」の一環と見ることは容易だ。

「中国が主導してアジア諸国を支援する」という構図には、さらに大きな欺瞞がある。

中国は日本主導の「アジア開発銀行」から年20億ドルも借り入れている(2013年、新規借り入れ承認ベース)。また、中国は日本から年3億ドルもの政府開発援助(ODA)を受け取っている。露骨に言えば、他国からの支援を"又貸し"して自国の影響力を強めようとしているのだ。

また中国自身が、深刻な環境汚染問題などの国内問題に充分な投資をしていない。微小粒子状物質「PM2.5」の及ぼす健康被害も懸念され、北京周辺地域での平均濃度が政府の定めた基準値の3倍に上った。また、水汚染も進み全土の地下水の60%が直接飲用できないという。他の工業国が行ってきた、環境対策のための投資を怠ってきたからだ。

中国は、アジア諸国に投資という形で"恩を売る"前に、国内で必要最低限の"インフラ投資"を行って国民にまともな生活をさせるべきだ。それをしないなら「アジア開発銀行」や日本からの支援を受ける資格はない。

日本は、「アジア開発銀行」の資金や、対中ODAが適切に使われていない実情を見逃すべきではない。ましてやそれが長期的に、自由主義圏の後退を援助しているかもしれない、という自覚も必要だろう。中国への資金援助のあり方を改めて見直す必要がある。(光)

【関連記事】

2014年4月26日付本欄 東南アジアを囲い込む中国資本 日本はTPP早期妥結を目指せ

http://the-liberty.com/article.php?item_id=7758

2014年3月31日付本欄 ODA大綱見直しへ 中国支援の日本は「世界の安全と繁栄」支援に転換すべき

http://the-liberty.com/article.php?item_id=7624