昨年、日本領空に接近した軍用機などに対して航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)した回数が810回にのぼったことを、このほど防衛省が発表した。冷戦終結宣言が行われた1989年度以来、800回を超えたことは初めてで、ここ24年で最大である。

中でも、一番多かったのは、中国機に対するスクランブルで、415回にのぼり、前年度比で36%の増加となり、2年連続で最も多かった。2位は対ロシアだが、ロシアの航空機は、情報収集機が目立つことに比べ、中国は戦闘機が多いという。この対中国機スクランブルは民主党政権になってから増え始め、2011年の尖閣諸島沖での漁船衝突事故や、2012年の日本による尖閣諸島国有化を経て急増した。スクランブルの回数には、日本と中国の領土を巡る緊張が現れている。

日本の航空自衛隊は、単純に計算して、毎日2.2回以上のスクランブルを行っていることになる。

だが、自衛隊は領空侵犯に対して警察権の範囲でしか対応できない。警察権の範囲とは、正当防衛や緊急避難の範囲で防衛できるということであり、具体的には「相手が具体的な攻撃をしてきた場合にのみ、武器が使用できる」ということだ。「相手が殴りかかってきてはじめて反撃することが許される」状況で、本当に自国を防衛できるのだろうか。

その上、日本の領空に侵入した航空機に対して自衛隊による撃墜が可能かどうかは、その時々の政権によって解釈が分かれてきた。

昨年、安倍首相は、領空侵犯した航空機に対して「撃墜」を含めた強制措置を取ることに了承したが、民主党政権下では、日中関係に配慮して、領空侵犯した中国機に対する警告すらできなかったことが明らかになっている。基本的に、日本の自衛隊は、相手の航空機を着陸させるか領空外へ退去させるしか対応手段がないのである。

一方、国際的な常識では、自国の領空に侵入してきた航空機に対して、警告や威嚇射撃を行い、それでも領空から出ていかなければ撃墜することも可能だ。直近では、先月、領空を侵犯したシリア軍機をトルコ軍が撃墜した。

自国の領空を侵犯され、警告されても出て行かない状況は「殴られるかもしれない」と考えるに十分な脅威であり、相手から具体的な攻撃がなくても武器を使うことには正当性があるとみなされる。

上記の考え方は国際法でも認められたもので、もちろん日本にも当てはまるのだが、憲法9条という手錠で自らを縛っている状態である。この状態で、増え続けるスクランブルや中国の軍事的な脅威に対処できるのか、不安はぬぐえない。

毎年増え続けるスクランブルの背景には、自衛権の範囲を制限している日本の「抑止力不足」がある。中国側からすれば、「攻撃されるまで撃墜されることはない」という安心感があり、挑発行為を行いやすいわけだ。このような挑発行為を野放しにし、エスカレートすれば、偶発的な事故が起こるリスクも高まり、平和を脅かす事態になりかねない。

抑止力とは、むやみな争いを避け、相手に悪を犯させない力のことだ。国際レベルの「自衛権」の行使すら認めない憲法9条は、早急に改正が必要である。

(HS政経塾 和田みな)

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