日本時間の8日午前2時半ごろ、南シナ海の上空で、クアラルンプール発北京行のマレーシア航空370便が突然、マレーシア空軍のレーダーから消えた。同機には乗員と乗客を合わせて239人が搭乗していたが、現在も同機は発見されていない。

離陸から失踪するまでの1時間弱で、操縦士から火災や故障などに関して、計器異常などの連絡はまったくなかったと発表されており、航空機の故障、機内持ち込み物の爆発などの事故と事件の両面から原因の究明が続いている。

中国の新聞各紙は、全国人民代表大会(全人代)の開催中、共産党指導者らの取り組みを前面で報じるのが通例であったが、9日付の各紙は1面で、同機が行方不明になったことを報じた。乗客の中で最多となる153人が中国人だったことに、国内でも大きな衝撃が走ったようだ。

それを背景に、航空機と中国籍乗客の捜索のために、中国海軍は9日、ミサイル・フリゲート艦「綿陽」と揚陸艦「井岡山」などの計4隻の派遣を発表。同日午後には中国海警局の巡視船が到着し、捜索活動に当たっている。

一方、米海軍の第7艦隊からは、イージスシステム搭載のミサイル駆逐艦「ピクニー」が派遣されている。捜索活動のために、米中両国がいち早く艦船を派遣し、東南アジア各国への協力姿勢を明確にしたと言える。

こうした中で、中国海軍諮問委員会の尹卓(ルビ)少将の発言に注目が集まっている。政府系ウェブサイト「中国網」で同少将が「南シナ海で事故が発生した際に迅速な捜索を可能にするため、中国は南シナ海に飛行場と港を建設すべきだ」「特に南沙(スプラトリー)諸島に港を建設することが切迫した任務だ」と述べたことを、10日付産経新聞ウェブ版は報じている。

南シナ海では、主に1970年代から中国と東南アジア諸国の間で領有権争いが問題となっている。中国に近い西沙諸島では、74年に中国がベトナムとの海戦を経て、同諸島を領有。84年には2600m級の本格的な滑走路を建設して南シナ海域支配の拠点を築いた。それ以降、さらに南方の南沙諸島も領有し、軍事拠点を設置しようとしている。

その中で、南シナ海の南方の海域で、今回のマレーシア機の事件が発生した。南シナ海の支配を目論む中国は、捜索・救助活動のための艦船の派遣を絶好の機会と捉えていることだろう。

日本にとって、この海域は、日本向けの船舶が頻繁に通るシーレーンの要衝だ。今後の中国海軍の領域拡張を阻止するためにも、今回の事案をきっかけにして、集団的自衛権や自衛隊の海外での活動の議論の中で、南シナ海で日本がどのような役割を担うべきかを固めていかなければならない。(HS政経塾 森國英和)

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