安倍政権が、政府の中長期的なエネルギー政策の方針である、「エネルギー基本計画」をまとめた。今後、与党内で議論され、3月中には正式に閣議決定される見通しだ。

安倍晋三首相は就任当初から、民主党政権のエネルギー政策をゼロから見直すことを表明していた。今回、「原発の利用」を基本計画の中に盛り込むことで、「原発ゼロ」路線からの方向転換を明確にした。

この原発回帰に対し、27日付朝日新聞の社説は、「これが『計画』なのか」と厳しく批判を加えている。だが本欄では、安倍内閣に、逆の意味で「これが『計画』なのか」と問うてみたい。

日本のエネルギー自給率はたった4%。風力や地熱などの再生可能エネルギーでは、いまだ原子力発電を代替できない。また、原発の停止によってLNG火力発電の燃料費がかさみ、1日当たり100億円の国富が海外に流出している。その中、安倍政権が民主党政権の原子力政策から舵を切ったことは、評価すべきことだろう。

しかし今回の基本計画では、原発反対派に配慮したため、原発の重要性が曖昧になっている。

原発の位置付けについて、昨年12月の段階では「基盤となる重要なベース電源」とされていたが、今回の基本計画では「重要なベースロード電源」と変更された。この「基盤となる」という表現が削除された背景には、自民党・河野太郎氏など原発反対派議員への配慮がある。

また、「原発依存度をできる限り低減させる」という表現が残り、原発の必要性が完全にぼやけてしまった。それに伴い、福井県の敦賀発電所3・4号機や、鹿児島県の川内原発3号機などの原発の新規増設についての判断は見送られた。このように、政府の意志が不明瞭になったという点で、原発政策は一歩後退したと言えるだろう。

結局のところ、安倍政権は、「原発は必要だが、表向きは原発に慎重な姿勢を見せる」という形で、各方面からの批判をかわそうとしている。だが、現在の原発の諸問題は、政府の明確な意志なくして解決することはできない。

昨年7月から始まった原子力規制委員会の安全審査には、これまで10原発17基が申請済みだが、未だ1基も審査が終わっておらず、再稼働が大幅に遅れている。規制委の安全基準や審査手続きそのものが妥当なのかという疑問も呈されているが、問題の本質は、政府が「早期再稼働」という判断を下さないことにある。

早期再稼働のみならず、新規増設、使用済み核燃料の最終処分場の課題も、政府の意志が明確でなければ、前に進むことはない。基本計画は、中長期のエネルギー政策の骨格である。その意味で、今回の意志薄弱な内容は、「基本計画」に相応しいものとは思えない。計画の中で、政府のはっきりとした意志が示されなかったことは、非常に残念だ。

2月中旬には、関東地方などが記録的な大雪に見舞われ、栃木や千葉、群馬を中心に、約18万戸が停電。電気の重要性を改めて痛感させられた。安倍政権は、この雪害も踏まえて、現在の日本にとっての原発の必要性を国民に訴えるべきだ。そして、「脱原発」の呪縛から日本を解放しなければならない。(HS政経塾 森國英和)

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