アイドルと景気の循環は密接な関わりがある。

《本記事のポイント》

  • SMAP、AKBブレイクも不況の時。
  • デフレ下で、アイドル産業が急成長。
  • 安倍政権はいざなぎ景気超えを成果とするが、アイドル産業がなぜ活性化しているのか。

11月にグループ初の東京ドームライブを控えるアイドルグループ「乃木坂46」。今年上半期のソロ写真集の売上ランキングを1位~7位まで独占し、このほど新たに、4人の写真集の発売も決まるなど、ノリに乗っている。また、姉妹グループである「欅坂46」も、デビューから4作連続でオリコンチャート1位を獲得し、人気上昇中である。

両グループは「坂道グループ」として知られ、10代から20代の若者に広く支持されているが、日本には1000を超えるアイドルグループが存在し、「現代はアイドル戦国時代」ともてはやされている。

実は、このアイドル人気が、日本経済の症状を示しているという見立てがある――。その理論とは、「アイドルが売れる時は、不況である」という有名な仮説のことだ。

SMAP、AKBブレイクも不況の時

理論を滔々と説明するより、論より証拠。下のグラフを見てもらいたい。アイドルが人気を集める時は、経済成長率が鈍化、あるいはマイナスを記録し、逆に、アイドルが冬の時代を迎えている時は、経済成長率が上向いていることが分かる。

田中秀臣著『AKB48の終焉』参考(SPEEDは前身グループ)。

「景気は気から」とはよく言ったものだが、ファンの心理が、経済状況と密接に関わっている。恐らく、経済が停滞している現状への“はけ口"として、アイドルから元気をもらいたいという心理状態になっているのだろう。

デフレ下で、アイドル産業が急成長

実際に、日本経済はデフレに陥り、数々の産業の成長が鈍っているのに、近年のアイドル産業は急成長を遂げている(下図)。

単位は億円。年は年度。矢野経済研究所資料より作成。市場規模は、ライブチケットや公式グッズ収入などで算出されているため、経済波及効果を考えれば、実際の規模は数倍あると見られる

さらに、アイドルへの年間平均支出は、他のオタク分野と比べてずば抜けて多い(下表)。

矢野経済研究所資料より作成

この結果について、ネット上で、アイドルオタクから「少なすぎる!」「1カ月の間違いじゃないか」などの指摘が相次いだものの、経済が停滞気味であるのに、旺盛な消費能力がある点は間違いない。

「秋元商法」もデフレ経済

よりミクロな分析に立って、アイドルとデフレの関わりを説明するのに最適であるのは、乃木坂46やAKB48などを手掛けるプロデューサーの秋元康氏の商法であろう。

音楽業界は長らくCD不況に陥っているが、それらのグループは、不況をものともせず、100万枚を超えるミリオンセラーを記録している。その秘訣は知られているように、握手券や特典映像などを同封し、新たな付加価値をつけることだ。

例えば握手券であれば、1000円ちょっとのCD代を出せば手に入れられ、ファンは、本物と触れ合うことができる。逆にアイドル側は、握手を通じて自身の魅力を知ってもらい、ファンを増やそうとする。運営側も、会場や警備員などを手配すれば、手軽に握手会を開催でき、さらに物販も同時に行うことで利益率を高めようとする。

つまり、「低単価・低価格」で、アイドルとファンの交流を実現させるという「デフレ商法」に他ならない。そのため、6月に欅坂46の握手会場で、発煙筒がたかれた事件が起きても、なかなか止めることができないのではないか。

いずれにせよ、日本経済はデフレからまだまだ抜け出せていない。安倍政権は、「いざなぎ景気超え」の景気回復を成果として訴えているが、もしそうだとすれば、アイドル産業がなぜ活性化しているのか。

さらに、衆院選を見据えて、「国難突破解散」「人づくり革命」という看板を掲げる前までは、「デフレからの脱却」を強調していたが、そのトーンを弱め始めているのはなぜか。

政府の様々な成果指標に目を通すより、アイドル産業を見た方が、かえって経済の実態はよく分かる。

(山本慧)

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