《本記事のポイント》
- 公正取引委員会が、事務所がタレントを「干す」構図にメス
- 事務所が結託して、タレントやテレビ局などに影響力を持ってきた
- 事務所の支配力が、日本の「ソフトパワー」を下げている!?
タレントと所属事務所との間で、移籍・独立をめぐるトラブルが相次いでいることから、公正取引委員会は、大手芸能事務所などの運営が「独占禁止法」に抵触していないか、調査を始めているという。このほど、NHKの報道番組「ニュースウオッチ9」が報じた。
焦点は、「芸能事務所が、所属タレントの移籍・独立を妨害していないかどうか」。
まず、複数の芸能事務所が結託し、お互いに他の事務所を辞めたタレントを自分の事務所に入れないようにする。それにより、移籍を阻止しているケースが多いと言われている。
また、独立したタレントが仕事を取れなくなるように、「独立した女優の○○を起用したテレビ局には、どの事務所からもタレントを出演させない」といった圧力をかけるパターンも多いと言われる。いわゆる、「干す」構造だ。
移籍・独立ができないことは、さまざまな人権侵害につながりかねない。
「事務所を辞めたり、刃向ったら、仕事ができなくなる」という構造があるために、長時間・低賃金で働かせて利益を搾取したり、本人の意に反する仕事や契約を強要することも容易になる。結婚・交際禁止や、枕営業等にもつながる。
こうした中で昨今、SMAPの独立騒動や、女優の能年玲奈さん、清水富美加さんの事務所とのトラブルなどが相次いだ。そこでとうとう、公正取引委員会が「独占禁止法」に抵触する実態がないか、調査に乗り出したわけだ。
独禁法違反とはどういうことか?
移籍・独立をさせないことが、「独占禁止法に抵触する」とはどういうことか。
例えば、複数の牛乳メーカーが、お互いに競争していればこそ、牛乳の値段も安くなり、消費者は喜ぶ。
しかし、牛乳メーカーが結託すれば、スーパーやコンビニに「牛乳パックは1本500円で仕入れろ。『安くしろ』と言ってきた店には、どの牛乳メーカーからも牛乳を出荷しない」と圧力をかけることも可能になる。
要するに、企業がお互いに手をつなぎ合って業界を「独占」することで、市場原理の中では生まれないような影響力を意図的に生み出すことができる。
こうした行為を禁じるのが、「独占禁止法」であり、「公正ではない取引が行われている」と疑われた場合、公正取引委員会が調査に動くことになっている。
同じように、大手芸能事務所も、複数が結託し、業界を「独占」することで、タレントやテレビ局などに対して、大きな影響力を持つことができる。
こうした実態は、それこそメディアに圧力がかかるために、あまり表沙汰にはなってこなかった。
日本のソフトパワーを左右する問題
こうした芸能事務所の「支配力」は、日本のエンターテイメントの質にも悪影響を与えてきたという指摘がある。
例えば、ドラマを作成する時は、プロデューサーが脚本と、それに合うキャスティングを模索するのが普通だ。
しかし実態は、事務所がその力を背景に、売り出したいタレントを、ドラマの枠に押し込んでいる。3年後のドラマのキャスティングが、脚本より先に決まっているとも言われている。
そうすると、結果的に、脚本とキャスティングのミスマッチなども起きやすい。製作者側が、キャスティングという作品の質を左右する重要な部分で、自主性を発揮できなくなっているのだ。
タレント側も、アーティストとしての自主性が発揮しにくい。
例えば、公正取引委員会の動きを報じた「ニュースウオッチ9」では、「女優活動を望んでいたにもかかわらず、アイドルとしての活動ばかり求められ、自分らしい仕事ができず悩んでいた」というタレントのコメントが紹介されていた。彼女は「人には合う仕事と合わない仕事があり、光の見えない日々が続いた」と告白している。
タレントの意向を縛るマネジメントは、その才能の開花の妨げにもなりかねない。
さらに、国民的アイドルグループのSMAPのメンバーが、所属事務所から独立しようとして、結果的にグループ解散となってしまったことは記憶に新しい。当時の世耕弘成・経済産業相も「コンテンツのアジア展開にとって今回の解散は決してプラスにはならない」と指摘したように、これは国家的な損失と言える。
つまり、大手芸能事務所の業界への「支配力」は、日本のソフトパワーにとってもマイナスになっている可能性が高いのだ。
芸術の開花には自由が必要
やはり芸術の発展には自由が必要だ。ヨーロッパで芸術などのレベルが一気に高まったルネッサンスも、教会の抑圧から、芸術家などが自由になったことで起きた。
今回の公正取引委員会の動きも、自由な芸能活動・芸術活動を促し、日本の「クール・ジャパン」戦略を推し進める一助となることを願いたい。
(馬場光太郎)
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