《本記事のポイント》

  • 教育無償化は、実は教育の質の低下につながる
  • 教育の丸抱えで国民を洗脳しやすくなる
  • 合法的な票の買収で財政赤字が拡大する

憲法記念日に都内で開かれた改憲派の集会に、安部晋三首相がビデオメッセージを寄せ、2020年までに憲法改正を実現する方針を発表した。

後編では、一見よさそうに見える「憲法改正による教育無償化」が、いかに危ない結果をもたらすかを見てみたい。

幅広い層を取り込む教育無償化

安倍首相は上記ビデオメッセージで、「高等教育についてもすべての国民に開かれたものとする」と述べ、「日本維新の会」が提言する憲法改正による教育無償化にも意欲を示した。

教育無償化を憲法に書き込めば、高校授業料の無償化を始めた民進党や、給付型奨学金の導入を訴えている共産党などの左翼陣営やその支持者らも取り込むことができる。

子供を持つ親にとってもありがたい話であり、学習意欲があるのに家庭の事情で進学できないという学生の声を聞けば、反対する人は少ないだろう。

しかも、この案の提言者である「日本維新の会」の顔を立てることができる。公明党と溝ができつつある今、維新の会と協調したいという安倍政権の思惑も垣間見える。

安倍首相は、戦後初めて憲法改正を成し遂げたという実績を残したくて、多くの人の賛同を得やすい教育無償化を訴えているのだろう。

「憲法改正をした初めての首相」になるために手段を選ばない安倍首相のやり方は、この政権のナメクジ的なヌメヌメ、ドロドロ感を象徴しているといえる。

教育の質の低下につながる

だが、教育無償化は、日本を衰退させた悪政として歴史に記されるかもしれない。

教育で一番大事なのは、その中身であり質だ。学力の向上や社会の進歩につながらないものであれば税金を投じる意味が薄れる。さらに言えば、学ぶ意欲がないのに、「どうせタダだし」という安易な気持ちで進学する学生たちが増えれば、他の学生にも悪影響を及ぼす。

実際、「義務教育」として無償で提供されている、公立の小中学校の授業の質は必ずしも高いとはいえず、都市部では塾に通わなければ進学に必要な学力が得られないケースも多い。平等主義で競争原理が働かないため、教育の質を高めようという学校や教師たちの意欲が低いからだ。

これによって経済的に余裕のある家庭の子は塾に通えるが、そうでない家庭の子は十分な学力を得られない。これこそ「格差」を生み、子供たちの心身への負担を増やす。

このような状況にあるのに、高等教育まで無償にした場合、どれだけの付加価値が生まれるのかは疑問だ。

成績優秀で学ぶ意欲も高いのに、家庭の事情で進学できない学生を税金でサポートするなら理解できるが、すべて無償化となれば、教育の質を低下させる懸念がある。

教育の丸抱えで進む国民の洗脳

また、政府がお金を出せば、教育内容についてますます口を挟むようになるだろう。

現状でも文部科学省は、私学助成金や大学や学部の設置に関する許認可権をちらつかせながら、教育内容について口を挟んでくる。

志ある教育者が理想の教育をしたいと思っても、教育内容や教員を自由に選ぶことができず、「学問の自由」が侵害されているのが現状だ。

もし、無償化すれば「許認可行政」がさらに正当化され、拡大されるだろう。そうなれば、政府が認めた教育機関しか設立されなくなり、学問の自由は死んでいく。

実際、共産党宣言には、「すべての児童に対する公共無料教育」という項目がある。無償化は教育の国家統制を強め、政府による国民の洗脳、社会主義化に道を開く可能性が高い。

合法的買収で財政赤字拡大へ

教育無償化に伴って必要となる、年間4兆円を超えると見込まれる財源については、「日本維新の会」法律政策顧問の橋下徹氏が、相続税増税でまかなう案を出している。これも、教育無償化と共に国家衰退の道を開くことになるだろう。

個人が努力して稼いだお金を、亡くなった後に政府が取り上げる合理的理由は見当たらない。相続税の増税は、子々孫々にわたって大きな富や事業を作り出すチャンスを奪うことになる。

相続税増税は、憲法29条で保障されている財産権を侵害するばかりか、社会主義国家への道を開く。共産党宣言には「無料教育」のほかにも、「相続権の廃止」が書かれていることを安倍首相はご存知だろうか。

耳に心地いい言葉にだまされてはならない。前編で、交戦権を取り戻さないまま、自衛隊の存在を書き加えることは、国家主権の放棄につながる「情けない政治」だと述べたが、教育無償化もまた、国民の自助努力の精神を奪い、依存心を高める「情けない政治」につながっていく。

自衛隊や教育無償化の「加憲」によって賛同を得て、改憲への道を開こうとしているのかもしれないが、改憲を焦るあまりテクニック論に走れば、国家は迷走してしまうだろう。

哲学なき安倍政権には限界が来ている。

【関連書籍】

幸福の科学出版 『新・日本国憲法 試案』 大川隆法著

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