《本記事のポイント》

  • メイ英首相が6月8日の総選挙を発表
  • 今度の争点はEU「市場」からの離脱?
  • 野党の「経済は離脱したくない」という主張は虫がよすぎる

今年のヨーロッパは大波乱だ。先月行われたオランダ総選挙に続いて、今月23日のフランス大統領選、秋にはドイツでも総選挙を控えている中、イギリスのメイ首相が18日の緊急声明で、6月8日に解散総選挙を行うと発表した。

最大野党の労働党も総選挙を歓迎しており、総選挙に必要な下院議員の3分の2以上での承認も得られる見込みだ。

イギリスは昨年6月23日に「EU離脱」について国民投票を行っている。離脱支持51.9%、残留支持48.1%という僅差ではあったものの、離脱支持が多数を占めた。これを受けて先月29日にEU離脱の正式通知を行ったばかり。なぜまた改めて「解散総選挙」なのか。

経済は離脱したくない?

メイ氏が進めるEU離脱は、国民投票のきっかけとなった「移民の流入」だけではなく、EUの単一市場からの離脱も進めるもの。実は、これには与党である保守党側も足並みがそろっていない。EUの単一市場からの離脱で、関税がかけられて輸出が不利になることが懸念されているからだ。

野党は軒並み離脱交渉に反対を示し、貴族院議員も「離脱への各段階で戦う」と明言。このままではイギリス議会での離脱交渉が難航することとなり、EUと交渉するイギリス政府の立場を弱くしかねない。

現状、定数650の下院で、メイ氏率いる保守党の議席数は330議席。最大野党の労働党は229議席を持つ。労働党は、国民投票を受けてEU離脱自体は受け入れているが、単一市場からの離脱には反対している。

また、国民投票後のキャメロン前首相の辞任から、他候補の脱落で党首選も行われることなく首相に就任したメイ氏に対し、野党側から「総選挙で信任を得ていない」「国民が選んだ首相ではない」という批判も出ている。

経済の議論は今に始まったことではない

17日に発表された支持率調査によれば、保守党は44%、最大野党の労働党は23%。このタイミングで解散総選挙を行えば、保守党が議席を伸ばすとみられている。メイ氏としては総選挙で国民の信を得て勢いをつけ、EUとの交渉における自国の立場を盤石にしていきたいところだろう。

一方の野党側は、EU離脱についての世論は支持と不支持がほぼ拮抗しているため、総選挙を機にEU離脱を最小規模に留めたい思惑がある。

結局、イギリスでは「EU離脱」は経済問題になってきている。しかし、昨年の国民投票の時点で、EU離脱による経済的な影響についても議論は尽くされてきた。

EU離脱はイギリスのチャンスだ

メイ氏は声明で、「我々は、強力で成功したEUと、自由なイギリスの間で深く特別なパートナーシップを求めている。イギリス自らの『通貨発行権』『法律の制定』『国境の管理』を取り戻し、世界中の友好国や新たなパートナーとの間で自由に貿易協定を取り決める」と述べている。メイ氏の目指すものはアメリカの動きとも足並みを揃えているようだ。

イギリスが経済成長していくためには、何をするべきだろうか。それはEUという枠組みに頼ることではなく、イギリスのお家芸であったセルフ・ヘルプ、自助努力の精神を取り戻すことではないだろうか。

EU離脱はイギリスが自助努力の精神を取り戻す絶好のチャンスだ。経済においてもEUの枠組みから離脱して、アメリカやカナダ、インドとの協力関係を築くことを目指すべきだろう。イギリスは国連常任理事国で、その影響力も大きい。

本来、国民投票で決まった「EU離脱」には経済的な議論も含まれていたにも関わらず、野党も貴族院も「経済は離脱したくない」と言い出すのは虫のいい話だ。今こそイギリス議会は足並みを揃え、アメリカと共に自助努力の精神を取り戻す流れを創り、国内の雇用と産業を発展させていく時である。

(HS政経塾 野村昌央)

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