東京都港区の東京メトロ銀座線・青山一丁目駅で、盲導犬と一緒に歩いていた視覚障害者の男性がホームから転落し、電車にはねられて死亡する事故が15日に起きた。同駅のホームは横幅が2.9メートルしかなく、線路との間を区切るホームドアは設置されていなかった。

今回の転落事故で亡くなった男性は、目が見えにくくなってからも幼稚園の園長を務めるなど、精力的に働いていた。園長を退いた後も、学童保育で子供たちの世話を続けていた。最近は障害者の自立を支援する会社で働いていており、事件当日も出勤の途中だったという。

目が見えない中、線路に転落して電車にひかれるのはどれほどの恐怖であっただろうか。安らかに天に召されることをお祈り申し上げたい。

行き届いていない駅のホーム柵の設置

東京などの大都市の駅は利用者が多く、ラッシュアワーには健常者であっても転落の危険性を感じるほどだ。視覚障害者にとっては、毎日の通勤が命がけといっても過言ではない。今回のような事件が再発しないよう、社会全体で万全の対策が求められる。

転落事故を防ぐために、最も確実な方法として、本誌でも2003年からホームドアの全駅設置を提言してきた。導入が進むJR山手線では、設置した駅では転落事故が発生しなくなったという。

しかし、工事費用などのハードルは高く、設置が進んでいないのが実情だ。

国土交通省によると、1日に10万人以上が利用する鉄道各社の全国251駅のうち、ホームドアの設置は3月末現在で約3割の77駅にとどまっている。東京メトロ銀座線では全19駅に設置するのに約90億円、JR山手線では全29駅で約550億円が必要と見込んでいる(18日付毎日新聞)。

他者への思いやりが事故を防ぐ

ホームドアの設置などの物理的な事故防止対策とともに、駅の利用者のマインド面からも対策を講じていく必要がある。

最近、スマートフォンを操作しながらホームを歩く人が増えたことへの危機感から、鉄道各社も駅や電車で頻繁にアナウンスをしている。それぞれがスマホにのみ集中し、過度に自己中心になっていることが、接触による転落などの危険を呼び込んでいるのだ。

障害を持っている人に限らず、すべての人が安心して生活するには、周りへの思いやりが必要だ。こうした周囲への配慮は、突き詰めると、「自分も他人も、根本においては同じ神からつくられた存在である」という、「自他一体」の考え方から生まれる。

自分とは違う立場の人の状況を想像するだけの心の余裕と優しさが、駅でのマナーを改善するための基礎ともいえる。悲しい事故を繰り返さないためにも、今こそこの教訓を生かしたい。

(小林真由美)

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