民主党政権が、専業主婦のための配偶者控除の見直しや、専業主婦の年金を減額する改革案を打ち出している。専業主婦を税金や年金の中でどう位置づけるか難しい問題だ。この問題で、八木秀次・高崎経済大学教授と八代尚宏・国際基督教大客員教授が正反対の論文を書いている。

八木教授は31日付産経新聞「正論」欄でこう主張した(一部要約)。

  • 大平正芳首相が組織した民間人らの研究会の一つ、「家庭基盤充実研究」グループは80年に提出した報告書で、「政府や自治体が国民の福祉を全部見るのは無理で、家庭・地域・企業なども福祉を担うべきだ」と指摘。その流れで、配偶者控除拡充や専業主婦年金の第3号被保険者制度の導入などが実現した。
  • 野田政権は「大平政治」を理想としているが、今、正反対の政策を採ろうとしている。小宮山洋子厚労相は、家庭基盤を充実するのではなく、専業主婦を目の敵にしている。
  • このまま税や社会保障を「世帯単位から個人単位へ」転換させ、家庭を媒介とせずに、国家が直接個人の福祉をみることが今日の財政状況で可能なのか。

一方、八代教授は同日付の日経新聞で、専業主婦優遇の見直しを主張。

  • この問題の本質は、専業主婦と共働き世帯の妻との「女性の対立」というよりも、世帯主が扶養する妻の年金費用を社会全体に負担させるという「ただ乗り」にある。
  • 急速に少子高齢化が進む社会では、働く意思と能力を持つ個人が年齢や性別を問わず就業できる環境の整備を最優先すべきである。

両方とも正しさを含んでいるが、結局のところ、世代や立場によって負担と給付のギャップが広がりすぎ、年金制度そのものの歪みがあまりに大きくなっているということだ。その意味で、「社会保障の担い手は政府や自治体だけでは難しい」という八木氏の指摘はより正当性がある。そもそも政府が全国民の老後の生活の面倒を見るということ自体、不可能というものだ。(織)