《ニュース》

中国が南アジアでの存在感を強めるなか、インド洋の島国・モルディブにおける中印の綱引きに注目が集まっています。

親中路線を打ち出して昨年11月に就任したモルディブのモハメド・ムイズ大統領が、慣例を破る形で、初の公式訪問先として隣国のインドではなく中国を選び、話題を呼んでいます。

《詳細》

インドの南、スリランカの西に位置し、アジアと中東を結ぶ海運の要衝となっているモルディブでは昨年9月、5年ぶりに大統領選が行われ、首都・マレ市長だったムイズ氏が当選。外交方針の転換が注目されていました。

同国では近年、5年ごとに行われる大統領選で、親中派と親インド派が交互に台頭しています。2013年から5年間にわたって政権に就いたヤミーン元大統領は、中国が進める「一帯一路」構想に賛同し、中国資本による大規模なインフラプロジェクトを推進しました。これに対し18年に就任したソーリフ前大統領は、インドと新たな貿易協定を結び、インド兵のモルディブ駐留を認めるなど、親インド路線に切り替えています。

しかし昨年の大統領選で、「インディア・アウト(インドは出ていけ)」を掲げたムイズ氏が当選。この度、慣例を破る形で初の公式訪問先に中国を選び、親中姿勢を内外に示しました。8日から中国を訪れ、もっと多くの中国人観光客をモルディブに送るよう求めているとのことです。

なお同氏は親中派のヤミーン政権で住宅相を務め、一帯一路に関連するインフラ事業に多数携わってきた人物です。事実上、親インド派のソーリフ氏と親中派のムイズ氏の一騎打ちとなった昨年の大統領選をめぐっては、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙やニューヨーク・タイムズ紙が中印両国の"影響力争い"を報じるなど、動向が注目されてきました。

ムイズ氏はインドに対し既に、自国に駐留するインド軍部隊の撤収を要請しています。この方針をめぐっては、中国が巨額融資の条件としてインド軍撤退を要求した可能性が指摘されており、ムイズ氏が今後さらに中国融資のインフラ整備を進めた場合、債務が膨れ上がり、結果としてモルディブの港湾や空港が中国の拠点となることが懸念されています。

中国はもともと、インドと敵対するパキスタンとの関係が強いことに加え、スリランカ、ネパール、ブータンなどへの影響力を強化することで、インド包囲網の布石を打ってきました。

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