2023年8月号記事

デジタル円は怖いぞ!

あなたの私生活がまる見えに

お札の代わりに、スマートフォンに入れた"国のアプリ"で買い物や貯金をする──。
そんな制度を、各国政府がつくろうとしている。
あなたの資産や買い物記録が事細かに把握され、課税、監視、行動のコントロールに使われる未来に、警鐘を鳴らした。


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デジタル円は怖いぞ! - Part 3 財産凍結、街から出られない、罰金自動引き落とし── デジタル人民元は、監視国家・中国の集大成


財産凍結、街から出られない、罰金自動引き落とし──

デジタル人民元は、監視国家・中国の集大成

「日本在住の中国人富裕層の知人たちは、本国の富裕層から『早く資産を東京に移したい。なんとかしてくれないか』と相談が来ると言っています。デジタル人民元が導入されて、資産や取引全てを把握されることを恐れているのです」

産経新聞特別記者の田村秀男氏は、編集部の取材にこう語った(本誌30ページにインタビュー)。

中国当局は中央銀行(中国人民銀行)の発行する法定デジタル通貨「デジタル人民元」を世界に先駆けて開発し、実証実験を進めている。その導入の最大の目的は、「あらゆる取引を細かく監視するため」である。


キリスト教の信仰で"電車に乗れない"

現時点でも、中国当局はある程度、お金の流れを把握している。当局にとって不都合な人物に対し、「銀行口座を凍結する」といった対処も進めている。最近では、香港の「蘋果日報(アップルデイリー)」創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏が、香港国家安全維持法違反で自身やその会社の銀行口座を凍結された。

前出の田村氏は、「当局が睨んだら、すぐやるでしょう。対象は金持ちに限りません。例えば産経新聞の北京特派員が任期を終えて帰任しようとしたら、難癖を付けられて預金を下ろせなくなりました。そういうことをする国なのです。中国の裁判制度は全て共産党の意向のままなので、法律はあってなきがごとしです」と述べる。

また、「社会信用システムに基づいて、デジタルウォレット(電子決済アプリ『アリペイ』や『ウィーチャットペイ』など)を凍結する」といった措置も、常態化している。社会信用システムとは、中国政府が収集したデータに基づいて、全国民をランク付けし、信用度を点数化するシステムのこと。

ブラックリストに載ると、デジタルウォレットは凍結され、ホテルの予約や電車・航空機チケット購入、デリバリーの注文などができなくなる。「法律に著しく違反、または信用を失った中国市民は鉄道および航空機における移動が適切に制限される」という通知に基づき、ブラックリスト入りして電車・航空機のチケットの購入ができなくなった人は、2018年だけで2300万人に上る。

特定の宗教を信仰する市民もブラックリストに載ると見られており、移動のためのチケット購入を監視・禁止されている人が数多くいる。あるキリスト教系の教会の牧師は、「邪教組織の計画および利用」の罪に問われ、刑務所に10カ月収容された後、電車や航空機、船の利用ができなくなった。別の教会の代表者も、逮捕されて個人情報が登録されたのち、電車の切符を買うことができなくなったという(*1)。つまり事実上、街から出られなくなるということだ。

(*1)2019年1月25日付Bitter Winter

デジタル円は怖いぞ!---Part-3-財産凍結、街から出られない、罰金自動引き落とし──-デジタル人民元は、監視国家・中国の集大成_01
デジタル人民元を発行する中国人民銀行。画像:humphery / Shutterstock.com

 

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