戦後70年の今夏は、何かと先の大戦に関係する話題が注目を浴びるが、中でも総合素材メーカー・三菱マテリアルの"賠償問題"は、大きな波紋を呼んでいる。

新聞各紙によると、同社は第2次大戦中に、前身の会社で働かせた中国人元労働者3765人に対し、謝罪を表明し、1人当たり約200万円を支払うなどして和解する方針という。同社は先日、米カリフォルニア州ロサンゼルスで、先の大戦中に日本軍の捕虜だった米兵に強制労働をさせたとして、日本企業として初めて謝罪している。

日本企業として最大規模の戦後賠償となる

記事によると、先の大戦中、日本には、約3万9000人の中国人が連れて来られ、そのうち3765人が三菱マテリアルの前身の企業で働いた。元労働者やその遺族はこれを強制労働とし、北京の裁判所は昨年、この訴えを受理した。

これに対し、三菱側は、裁判とは別に、「痛切な反省」と「深甚なる謝罪」の意を表明し、中国人元労働者3765人に対して1人当たり10万元(約200万円)の謝罪金、および記念碑の建設費(1億円)、調査費(2億円)を拠出するという和解案で、問題の解決を探る見通し。日本企業による戦後賠償では最大規模となる。

三菱側が和解方針を固めた背景には、中国でのビジネス環境を整えたい考えがあると見られている。

戦争の賠償問題は解決済み

中国側は"強制労働"を歴史カードの1つに使っているが、そもそも1972年の日中共同声明で、中国政府は日本に対する戦争賠償の請求を放棄しているため、三菱の問題を蒸し返してはならないはずだ。

また、日本は賠償の代わりに政府開発援助(ODA)という形で、これまでに政府・民間合わせて約6兆円にも及ぶ莫大な経済支援を行い、中国の経済発展やインフラ(結果的に軍拡を含む)の整備に尽力してきた。

三菱側は裁判外の和解策を探ることで、日中政府間の衝突を避ける狙いかもしれないが、逆に、これが新たな火種を生む可能性もある。

日本企業がアメリカ・中国と続けて謝罪したとなれば、韓国も黙ってはいないだろう。実際に、元・朝鮮女子勤労挺身隊員の韓国人を強制的に働かせたとして、戦後補償を求める韓国の市民団体は「三菱側は韓国人には対応しない差別的な姿勢を取っている」と批判している。

しかし、戦時中の朝鮮半島は日本であり、当時の朝鮮人も日本人として、日本人と同じように政府に徴用され、同じ賃金を得ながら働いた。ちなみに、韓国への賠償は、1965年の日韓請求権協定で終わっている。韓国は、その際に日本が提供した約8億ドル(990億円)をもとに、インフラなどを整えていき、「漢江の奇跡」という経済成長を実現したが、韓国国民はこの事実を十分に知らされていない。

今後、「日本企業に因縁をつければ、お金が取れる」と考えられ、戦争中に日本企業が行ったことを、さまざまな形で蒸し返され、その度に、各企業が和解のためにお金を支払う、という"悪しき慣習"ができてしまうかもしれない。そうすれば、日本企業の国際競争力が落ちるだけでなく、日本という国自体に「やはり日本は悪い国だった」というイメージが広がってしまう。

日本政府にも言えることだが、日本企業も、毅然とした対応や正しい歴史観を持たなければ、国際社会で、ゆすられ、たかられ続けてしまう。三菱マテリアルも経営上、苦渋の決断なのかもしれないが、ここは何とか踏ん張っていただきたい。(真)

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